突然だがゾロという男は、19歳という色んなことに興味が尽きないお年頃の思春期男子にしては、少し奥手な奴だ。

そんな彼と俺は男同士だけど恋仲であるが、初めて手を繋いだのもハグしたのもファーストキスも、まぁ全て俺から仕掛けたし、その時も赤面していたから人並み以上なのだと思う。

だからこそ、ごく稀にだが、ゾロの方から甘えてくれた時は、それはもうすっごく嬉しい。本当に嬉しい。


そしてそれがまさしく、今だったりする訳で。



「なぁコック、それ置け」

「んー?そうは言ってもなー、これやっちまわねば後々大変なんだよー」

「そんなの後でやれよ、なぁ、コック」

「ったく、しょうがねえ奴だなぁ。負けたよ、ほら、手ぇ空けたぞ甘えん坊め。」


そう伝えるなり後ろでだだをこねていたゾロは、作業を中断して椅子に腰掛けた俺の隣にすすすっと移動して、自分も椅子に腰掛け肩口に寄り添ってくる。

一見硬そうに見えるが実は意外にふわっとした萌葱色の髪が、首筋に触れて少しくすぐったい。
俺に体重を預けてふうっと一息つく彼は本当に可愛い、ああ幸せ。


いつもならこういうのは俺から強引に仕掛けて、悪態をつくゾロを半ば無理やり自分の側に置く。
生傷だってなんのその。
ゾロはものすごい仏頂面で黙って隣にいて、そのまま寝てしまうのがオチなのだ。

まあ何が言いたいかというと、つまりはゾロと甘酸っぱい雰囲気を楽しむには、ゾロが素直なこういう時しかないってこと。


「ゾロ」

「ん?」


頭を上げてきょとんとこちらを向くゾロの耳にキスを落とす。
チリン、とピアスが鳴ってゾロの顔が赤く染まった。
眉間の皺が深くなるのは、彼なりの照れ隠し。

こんなところで、と少し抵抗を見せるも悪い気はしていないらしく、今ではされるがまま。
今日の彼は本当に珍しいぐらいに甘えたがりである。


それから暫く、俺達は甘い甘い時間を共に過ごした。
だが、そんな時も束の間、そんな幸せはバン、という力強く扉を開ける音によって終わりを告げられたのである。


「……ッ!!!」

「サンジー、外暑くてよー、水くれ水………あ、お、お邪魔しましたあああ!」

俺達がいちゃいちゃと触れ合う現場を目撃したウソップが走り去る。
しまった、完全に抜かった。

この幸せな時間にかまけて他の船員が入ってくるという危険性を全く忘れていた。
ゾロが言ったこんなところで、という言葉が頭を渦巻く。


恐る恐るゾロの顔を覗くと、だから言っただろうって顔で俺を睨んでいた。怖い。


「ゾロ…」

「あぁ、みなまで言うな。謝られても事実は変わらん。」

「う、うん」

「そんな事より、続きだ。見られたところで元より知られてることだろ。」

「ゾロ…い、イケメン…!」


どうやら今日の彼はとても機嫌が良いらしい。
それとも構ってほしくてしょうがないのか。
どちらにせよ可愛い奴だ。


そんなこんなで俺達は再び甘い時間を過ごす、はずだった。
だが世の中上手くはいかないらしい。

いざ再開しようとすれば、ナミさんが進路を変えると言い、ルフィが腹が減ったとごねるし、ロビンちゃんとブルックが紅茶を取りに来たり、フランキーは冷えたコーラを催促しに来、ウソップは流石に我慢できなくなったかまた水を求めて来たり。

次々と人がキッチンへと押し寄せる。
俺もゾロもいちゃいちゃどころではなくなっていて、ゾロはすっかり機嫌を損ねてしまった。

「今からでもゆっくり…」

「いや、いい。もういい。お前は仕事があって忙しい。邪魔になるから俺は大人しく鍛錬にでも勤しんでくることにする」

「そんなぁ…」


せっかくいい感じだったのに。
今日を逃すと、ゾロが甘えてくるのを待ってたら欲求不満で爆発してしまう恐れがある。
つまり理性を失い、ゾロに何をするか分からない。
それだけは避けたい。

どうにかゾロと一緒にいられる方法を考えた。
へそを曲げたゾロは、元々頑固なのもあって、一度言ったことは絶対変えない。
今の場合は、何が何でも鍛錬に励むということだ。


鍛錬…?ああ、そうだ。
俺はとびきりいいことを思い付いた。
こいつが喜びそうで、尚且つ一緒にいられる方法。


「ゾロ!」

「何だよ…」

「今日は一緒に、筋トレしませんか?」


目を見開いてこちらを凝視するゾロ。
あれ、しまった地雷踏んだかと思ったけど、ゾロの表情は瞬間ぱあっと笑顔を咲かせていた。
嬉しいようだ。ホッとした。


「…やりてぇなら、来てもいい」

「よし、じゃ腹筋勝負な。負けねえぞ、クソマリモ」

「面白ぇ、やってみろよヘボコック」


その後、俺達は日が暮れるまで共に腹筋をし続けた。
夕陽に汗が光り、俺達二人の短い息と回数を数える声が甲板に広がる。


その時のゾロの顔は本当に楽しんでいるって顔をしていて、俺は明日の腹筋の筋肉痛を気にしながら、こんなに嬉しそうなら、直接触れ合わなくても、たまにこんな過ごし方もいいかな。そう思った。



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いつも一人でしてる鍛錬も
サンジくんが一緒にしてくれたら
楽しいよね、て話。

不憫だけど最後はハッピーが
このサイトのモットー!


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