経験値は大事

ある日、既に聞き慣れてしまった着信音が犀香にゲームスタートを告げる
『──高難易度クエスト予告』

通知を確認し終えるとパタリとスマホを下に向け、顔を上げた。食事の真っ最中なのである
ふと視界の端に見慣れた姿を認め、犀香は再び箸を止めた
此処は大学の食堂。目の前には食べ掛けのうどん
逃げられないなあ、と犀香は他人事のようにボソリと呟く。ここ二週間、大学以外の時間はほぼ源さんと修行に勤しんでいたし。講義が被らないのを良い事に大学でも避けていたので顔を合わせるのは随分と久しぶりに感じる

「久しぶり、ハヤト」
「…おう」

目の前に立つハヤトに会わなかった期間を感じさせない声色で話し掛けた。追求を躱し切れないと思っただけで別に会いたくなかった訳ではないのである
しかし、どこかしおらしい彼の様子に犀香は首を傾げた
ハヤトの性格上、拳骨の一つでも落とされるかと思っていたのだが
…強硬手段過ぎた?

「もう怪我はしてねえのか」
「…え、うん」

いつも通り向かいに腰掛け、じっと見つめてくるハヤトに犀香は困惑する
「…どしたの?」

犀香が問い掛けてもハヤトの視線は外れない
「…お前、彼氏かなんか出来たのか」
「は…、?」
予想外の単語に犀香は思わず口を開けたまま固まる
「…なんで彼氏?」
「いんのか、いねーのか」
どっちだと机に身を乗り出すハヤトに犀香は訳も分からず首を横に振った。…身に覚えがなさ過ぎる
「本当だな?」
コクコクと頷く犀香にハヤトはやっと安心したように息を吐いて背もたれへ深く凭れた

「いきなりどうしたの?
何かあった?」

今度は犀香がハヤトを問い詰めるも「何でもねえ」「大した事じゃない」「気にするな」を繰り返す
犀香は内心不満であるが、怪我の絶えなかった時に心配してくれていたハヤトを犀香とて同じように煙に撒いて、はぐらかし続けたのだ。あまり強くは言えない
所詮おあいこなのである


日付が変わる頃、犀香はクエスト予告のあった駅前のある一角のビル屋上にいた。
湿った匂いを運んでくる夜風を感じながら、あちこちで立ち上がるボードの光を見つめる

「…久世さんは?」

背後には既に装備を完了した真嶋春道──ハルくんと源さん、楷君がいた
「なんか面白そうな気配がするってどこか行ったよ」
楷君の気だるげな声で答える
「そ。
…全く、人に招集かけといて自分勝手だなあ」
「しょーがないじゃん?
久世サンの横暴な王様っぷりは」
「オレは若の後を追う」
「…え、源さんそっち行ったら戦力ダウンなんスけど」
「心配ない
犀香がいるからな」
「買い被り過ぎです、源さん」

肩の上で切り揃えられた髪が長く伸び、頭上に纏まっていく。身に着けていた白シャツと黒のスキニーはそのままに、上から白いファーのついた紅色のコートへと装いが変わる
腰には双剣。

装備を終えた犀香を待っていたように、三人は各々に動き出した
楷は犀香の横へ並び立つと、しみじみとした様子で呟く
「何度見ても犀香さんの装備、見慣れない」
「そうかな?
私はもう慣れちゃったよ、偶に戦闘中は髪長いと鬱陶しいけど」

以前から顔見知りであった楷とは、インフェルノで顔を合わせてからも変わらない距離感だ
いや、むしろ仲良くなったかも

「長い方が似合いますよ」
「…!そうかな
楷君、そういうのサラッと言えちゃう所男前だなあ」
「…茶化さないでください
さっさと終わらせますよ」
「はいはい」

ビルの真上から視認したデブリの元へ飛び降りていく。ゲームと装備によって強化された身体能力ならこの程度はどうといことはない。
夜風を全身に受けながら、犀香は白銀の刃を振り下ろした







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