双剣は誉

目に見えて傷が増えた犀香を八坂ハヤトは頗る心配していた

ここ数ヶ月、大学構内で犀香を見かける度に腕やら足やら、何処かしらに包帯かガーゼが貼られており、一番酷かった時は明らかに殴られたような、口の端が赤く滲み頬が腫れ上がっていた
この異変に動かないハヤトではない
直ぐさま本人に問い質すが、互いに手の内は知り尽くしているのである。ハヤトの追求を犀香はのらりくらり躱し、遂には二週間ほど前から一切姿を見なくなってしまった
…避けられている
この事実にハヤトは己でも信じられない程の衝撃を受けていた
身内も同然である犀香の両親も一人娘の様子に心配していたが、元が放任主義の家庭である。ハヤトが口煩いオカン属性となったのも金木家の放任主義と犀香の楽天的な性質故というのが大きい

犀香には俺が着いていなければ危なっかしい
思わずそんな事を呟いていた

「うわー…八坂先輩うっざ」
「あ?んだと悠真」
周りを見れば和希と諒は苦く笑っていて、声を上げた悠真はげんなりとした顔を隠さずハヤトを批判した

「犀香先輩、サークルに入りたがってたのに八坂先輩が反対したんだよ?」
「それとこれは別問題だ
犀香はプレーヤーじゃないんだから巻き込む訳にはいかねえだろ」
「まあ、確かに
サークル活動って言ったらゲームに関する事が大半だし
何も知らない彼女を入れる訳にはいかない」

ハヤトに諒も同意するが悠真の不機嫌指数は下降の一途を辿っている

「S.L.Cだけじゃないよ!
八坂先輩ったら、やれあそこは不真面目だとか、このサークルは危ないとか!先輩が興味示したとこ全部否定してたじゃん」

悠真の言い分はもっともである。
S.L.Cに入れない為に諒や和希に手を回し、他サークルへの入会を反対し続けた挙句にその言い様では彼女を慕う悠真はハヤトを責めたくなるというものだ
和希と諒も思わず頷く

そんな一同にハヤトもぐっと押し黙るが犀香に対するハヤトの過保護っぷりは今更の事なのである

「だけど女の顔に傷がついてたんだぞ
心配するし、何してんのか問い詰めたくもなるだろ」
「…そりゃそーだけど、」
「ハヤトは何も聞いてないの?
犀香ちゃんに彼氏が出来た!とか」
「彼氏!!?」
和希の発言にハヤトは驚く
そんな反応をするものだから悠真は頬を膨らませてハヤトの知らない事実を突きつける

「八坂先輩は知らないと思うけど!
犀香先輩はモテるんだからね!」
「確かに、大学構内でも一人でいる時何かと話し掛けられてたりするね」
うんうんと諒に同意する和希
三人の顔を見比べハヤトは愕然とした

「…アイツ、そんな事一言も…」

「そりゃ八坂先輩がより一層過保護になったら困るもん。わざわざ言ったりしないよ」
「…いや、犀香ちゃんの場合、他人の下心に疎いから気付いてない可能性も」
「彼女なら有り得そうだ」

S.L.Cのクランホームでは犀香の怪我の理由から彼氏の有無に逸れていったのであった



御剣源次郎──基、源さんに師事をお願いしてから二ヶ月
獲物捌きに素人臭さは見られなくなっていった
このゲームに参加する以前から源さんは剣術修行であちこちを放浪していたのだという。そんな人からみっちり稽古をつけてもらっていたのだ。これで上達しなければ申し訳が立たない
最初の方は打撲や擦り傷が絶えず、ハヤトや両親は心配していたのだが、何とか慣れてくると受け身を取るのも上手くなった。

犀香と源次郎のクラスは『ウォーリア』。主に剣と己の身体が武器なのである。スキルも当然、剣戟や衝撃波を放つものに偏っている
…ただ、彼女のもつガーディアンは何処か異質であった
他には見られない能力を有するそれは使いようによっては味方をも害す。第一級取り扱い要注意な代物なのである
だからこそ、源次郎はより一層修行に力を入れ、また犀香もそれに応えた。全ては守る為に、ゲームなんかの為に大切なものを壊させない。それだけだった

「犀香」
「はい。なんでしょう」
「オレがこのゲームに参加する理由は一重に若への忠誠心故だ」
「そうですね
久世さんが黒だ。って言ったら、それが白でも源さんは黒だって信じるんでしょ?」
「そうだ
それがオレの忠義の示し方だ」

犀香にはよく分からない感覚である
恩人でも間違いは正すべきだし、それが誠意だと犀香は思っている。だから一般人だろうと関係なくスキルを用いる久世を犀香は見る度苦言を呈す
久世はそれを煩わしげに見る事もあるが、大体は面白く思って「お前は変わらずにいろよ」なんて言ったりする。

「だがお前は違っていい
若もそれをお許しになられている」
「度量が広いのか、気まぐれなのかよく分からないけど…、」
「主というのは孤独なものだ。…だからこそ、若に助けられたオレとお前とで若を支えていこう」

それは源さんにとって最上級の褒め言葉であり、激励だ
それが分かるから犀香は笑って頷いた
『インフェルノ』でこのゲームを生き残ると決めたのだから。共に戦う仲間がいるのはこの上なく心強い

「源さんに背中を預けてもらえるよう精進します」

犀香の力強い宣誓に源次郎は満足気に微笑んだ






-4-





「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -