そして交わる

ここ数日犀香は自己嫌悪の嵐に見舞われていた

久しぶりに頭にカッと血が上り、ハヤトに怒りをぶつけた挙句、嫉妬と情けなさでその場から逃げたのである
…だって、朱崎さん可愛かったし
諒君と和希君、ハヤトに悠真君…あのメンバーの中に居たのは自分だったのに。そう思えば思う程、何だか自分の器が小さく思えて情けない
…それに、訳を言ってくれない彼等を怒る資格なんて私には無いのだ。ゲームに参戦するようになって怪我ばかりしてた頃、心配してくれていたハヤトを避けて、問い詰められても隠し事をし続けている

「私って、思ってたよりも自己中だ」
手元のオレンジを搾る手は止めないまま、無意識にそう呟いていた

「どうしたんスか、いきなり」
隣で鮮やかなカクテルを作っていた楷君が訝しげに私を見る
「…嫉妬と自己嫌悪で反省中」
「はあ
でも俺、犀香さんの事、自己中なんて思った事ないっスけど。寧ろ周りに振り回されつつも真面目に生きてるし」
「楷君…、」

感動に胸を震わせるが即座に「反省しててもいいけど手は動かして」と突っ込まれる
ハイ!と再び輪切りにしたオレンジを手に取る
「疲れたら交代するからそれまで頑張って」
「うん。ありがと
でもまだ全然平気だよ」
「そ。で?何また八坂さん絡み?」
「またって…。私、楷君にハヤトの話した事あった?」
「…いや、犀香さん分かりやすいから」

私が搾ったオレンジジュースに楷君が手を加えて綺麗なカクテルにしていく。ハッキリと別れた色の境目が淡く溶け合って、美しいグラデーションになっていく様を私はぼうっと見つめていた
混ざりあって離れられないあのグラデーションは、私の年季がかった恋心のようだ
ただ私の中もあんな風に、美しい色だけであれば良かったのに。もしも私の頭の中を覗けたら、きっと見た事を後悔するくらいドス黒い色をしているに違いないのだから


明らかに落ち込んだ様子のハヤトに、諒は何と声を掛けるべきか迷っていた。
何日か前に部室へ顔を出したハヤトは既に意気消沈していて、そんな珍しい様子を面白がった和希と悠真が質問攻めにしていたのだが、「…犀香を傷つけた」その一言で流石の二人も慰める方にシフトチェンジしたのか、項垂れるハヤトの両脇でひたすら事態の把握に努めていた

触りの部分を聞けば、ハヤトと犀香さんが昼食中に朱崎さんが通りがかった事が発端だったようで。責任を感じている彼女を部室から連れ出したのである
ゲームに関して、犀香さんの耳には決して入れないと、皆で誓ったのだから今回の事は誰も悪くないのだ。ただ偶然が重なった事故だ

朱崎さんを部室から連れ出した手前、一応彼女にも犀香さんとの事を話す
彼女と俺達は浅からぬ関係で、ハヤトに至っては恋人同士ではないものの、なくてはならない大事な存在なのだから

「…と。まあ、そんな訳で。
クランホームとして機能してるS.L.Cに、プレーヤーじゃない犀香さんを入れる訳にはいかなかったんだ。
でもその後、彼女が入ろうとしたサークル全部却下して、何処にも所属させなかったのはハヤトの勝手かな。悠真もそれに関しては怒ってたしね」
「…そう、ですね
でも、八坂先輩は犀香さんの事とても大事にしてるって分かりました」

朱崎は苦く笑いながらも同意した

「犀香さんもきっと分かってくれますよ」
「うん、そうだといいな
その為にも、早くゲームを終わらせて。あの二人の間の隠し事はなくしてしまわないと」



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