恋は罪悪

それはほんの偶然だった
いつもの様にハヤトと昼食を共にしていた時、テーブルの横を女の子が通った
それに気付いたハヤトが知り合いだと声を掛けたのである

「よう、朱崎」
「八坂先輩!こんにちは」

可憐という言葉がよく似合うその子は、ハヤトとの短い世間話の後に犀香へと目線を向けた
目が合うと華やかに微笑む
「朱崎未来といいます
八坂先輩の、…彼女さんですか?」
「違えよ、幼なじみだ」

即答するハヤトを一切見ずに犀香も言葉を返す
「金木犀香です
ハヤトとは物心つく前からの付き合いなんだ」
「そうなんですか!
いいな、私幼なじみとか憧れます」

未来の言葉に犀香は曖昧に微笑んだ
良い事なんて数えるくらいしかないよ、なんて言える訳がない

「あ、私次の講義あるので失礼します!
じゃあ八坂先輩、また後で!」

急ぐように去っていった彼女の後ろ姿を見送る
だがしかし、犀香には一つ引っかかる事があった

「…あの子、また後でって言ってたけど講義か何か被ってるの?」
「ん?ああ、サークルな」
何となしに言い切ったハヤトの言葉に犀香は耳を疑った

「サークルって、諒君と和希君のいる?」

それしかねえだろと言うハヤトに犀香は「信じらんない」と溢す
「…諒君や和希君もいるなら、私も入りたいって言った時、ハヤト反対したよね?」
「これには事情があってだな…」
「…事情?
朱崎さん?は良くて私が駄目な事情?」

犀香の目は据わっている
これはやべぇ…とハヤトは内心冷や汗をかいていた

「女には分かんねえロマンを追求するサークルだからお前は入るな、って私に言ったこと覚えてる?」
「あ、ああ…」
「あの朱崎さんはそのロマンを理解してくれる貴重な女子って事?それでいいの?」

言葉は感情的だが声はどこまでも平坦なままである
普段、口煩いハヤトの言う事をハイハイと大人しく聞き、気難しいおっちゃんや、喧しくお節介を焼くおばちゃん連中にも朗らかに接し、よく出来た嫁になるとまで言われる犀香だが、当然人の好き嫌いはあるし、我慢の限界を迎えれば怒る普通の人間だ
ただ普通よりも耐久力がある分、怒りに火がついたら中々鎮火せず、また普段怒らない分、より恐ろしい


──しかし、
「…私、ショックだったんだ」
ポツリと溢す犀香の様子が、幼い頃から見てきた姿とはどこか違っていた
「ショックって、何でだよ」
戸惑いがちにハヤトが問うと、暗い色を浮かべた犀香が顔を上げた

「…大学生になったら、また高校の時みたいに皆で遊びに行ったり、楽しく過ごせると思ってたんだ
でもハヤトは反対するし、諒君や和希君もサークルは諦めてって言うばっかりで、訳も言ってくれない
…親友だって、またみんなで思い出作りたいって思ってたのは、私だけだったのかなって」
「別に!サークル関係なく遊びに行けばいいだろ」

「断られたのに?
…それに、大学生になってから皆、どこか余所余所しいよ
そんな時にあんな可愛い子がサークルに入ったって聞いたら、私だって…、流石に傷つく」

目線を下に向けてしまった犀香に、ハヤトは何も言えなくなった
諒や和希が犀香を説得したのは自分が手を回したからで、アイツらも犀香の事は親友と思っている。それは俺自身が断言出来る
しかし、だからこそ。
犀香だけはゲームに巻き込みたくはないのだ
他の3人も同じ思いだ
朱崎だって、好きでゲームに参加した訳じゃない。怖い、逃げたいと言う彼女を見ていると、犀香だけは守り通さねばと強く思う

だが、それでも──遠回しにでも伝える方法はあるだろうかと、そう何度も考えた
だが、俺達がそんなデスゲームに加わっていると知ったら?もし万が一、犀香にも『ペナルティ』が発生したら?
絶対に巻き込みたくないと思っているのに、俺のせいでプレーヤーになってしまったなんて。そんな事は絶対にさせられない
だから口を閉ざすしかないのだ


「…悪かったな」

やっぱり、理由は言ってくれないんだ
嫉妬と絶望に支配されたまま犀香は何も言わずに席を立った。
これじゃ、余りにも惨めだ


-8-





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