四者面談

福沢に今後どうするのかを問われた薫子は曖昧に笑った。
会議室では実兄である太宰と薫子、晶の身元を引き受けた国木田が同席していた。

「このままでも俺は構わんが」
「それは申し訳が立ちません
再就職先の目処はついておりますので」

微笑んだ薫子に太宰は頬杖をついて面白くないとでも云うように見遣る。
…自ら私と国木田さんの手助けをしておいて、実際仲良さげな様子を目にすると玩具でも取られたように感じるのだろうか。
「国木田君。薫子はまだ嫁にはやらないよ」
違った
兄の意外過ぎる言葉に薫子は思わず面食らう
「な、なっ何を云う!」
赤面する国木田をまたもジト目で見続ける兄に薫子は微笑んだ
「兄さんからその様な言葉が出るなんて。年月は人を変えるものですね」
「呑気な事を云ってる場合か!
薫子!俺はそんな下心で云った訳ではないぞ」
「あら
では完全な親切心なのですか?
寄る辺のない女子供を誰彼構わず住まわせるなんて…不用心な上に罪作りですよ?」
「な…っ
その…下心と云うと下品極まりないが。少なくとも好意のない人間を俺は家に上げたりせん。」

赤面したまま、眼鏡のブリッジを上げ下げし動揺を顕にする国木田に薫子はふふふ、と声を上げて笑った。悪戯が成功した童のような表情に、国木田は目を瞑って羞恥に耐える。兄妹揃って振り回されているが、薫子に限っては不快でないのがどこか気恥しい。

「…おい太宰。
そんな目で俺を見るな」

だが不愉快さを全開に晒す正面の男は別である。唯でさえこの男には振り回され、迷惑を被っているのだ。薫子に癒されているこんな一時位はこの男の存在は忘れたい

「…で。
再就職先と云うのは?」
場の空気を戻すようにコホンと咳払いした後に福沢は口火を切った。ポートマフィアの総てを識ると云われた太宰薫子の存在はこの横浜内外、何処の組織も欲しがるだろう。当のポートマフィアとて薫子の存在を諦めたと安心は出来ない。

「探偵社は嫌かい?」
太宰の問いに薫子は微笑む
曖昧な笑みだった
「嫌ではありませんよ?
…ですが、私はもうなるべく表舞台に立つべきではないでしょう。影ながら国木田さんや、兄さんを扶ける為に私は外に居るのが善いのではないかと、」
薫子の言葉に一同は考え込む

「探偵社とその組織が対立する事になったらどうする」
「ふふ、させません
兄さんは?どう思われますか」
「薫子が決めたなら異論はないよ。外に協力者を置くのは有効な手立てだし、薫子なら問題ないだろう」
「そう云ってくださると思っていました。この横浜を狙う輩は国内に留まらず、海の向こうからもやって来ています。
…ならば、敢えて探偵社とは離れた立場に私が居る方が、有事の際に影ながら支援出来ます。ご案じなさらずとも、部下のプライベエトに口出ししないと云う方から勧誘を受けていますので。その話に乗ろうかと」

「…ふーん
善いんじゃないかな」

一足先に察しがついたのか頬杖をついた状態のまま、兄は云う。

「ただ。晶ちゃんは異能力者だ
しかも非合法組織に囲われていた経歴を持つ。…晶ちゃんの所在は探偵社が持つ事になっているよ」
「ええ、分かっています
私にはあの子を守りきる能力はありませんし…あの時に覚悟は決めていますよ」

先の抗争…薫子が晶を国木田へ託した時の事である。福沢は伏せていた目線を上げ、正面の薫子を見据えた

「当分は見習いと云う形だ
孰れ時期を見て正式な調査員とする。
…それまでは研修と長い入社試験だと捉えてくれて構わん」
「お心遣い感謝致します」

では、そろそろ失礼させて頂きます。と腰を上げた薫子に福沢は最後に問うた。結局、再就職先は何処なのかと、
薫子は企むように笑んだ

「ふふ、警備会社ですよ
金と損得で動く男が牛耳る、ね」


「…あーあ
薫子はまたも私の下には就かないのだね」
至極残念そうに云う兄に薫子は困ったように笑った
「四年前にも仰っていましたね
楽をしたかった、と」
「勿論だとも
私が少しでも楽が出来るように薫子には色々と教えたのにい…」
「貴様は充分手を抜いた仕事をしているだろう!」
国木田の怒声を受けても太宰はどこ吹く風である。薫子はやれやれと息を吐く

「晶の所属が此方で、兄さんも居るのだから手代なら何時でも致します。事務作業と情報収集が私の本職でしたから、少しはお力になれるかと」
薫子の言葉に太宰は目を輝かせた。しかし当然ながら薫子と恋仲であり、太宰の同僚である国木田は頗る面白くない
「薫子!!
実の兄だからと云って此奴を甘やかすな!」
怒りの矛先が自分に向かったので薫子は眉を下げ、また困ったように笑う
「だって、業務に励む国木田さんの傍に居られるますもの。晶にも電子機器の扱いを教えてあげられますし、周り回って貴方の手助けになると思えば嬉しいのですよ」

国木田の怒りが収束していく瞬間だった。見る見る内に染まっていく国木田の頬と、正直に心中を吐露した薫子も、それに釣られるように赤くなっていく
そんな二人に太宰は再び気に入らないと云いたげに頬杖をつき、福沢は微笑ましく口元を緩ませた






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