ヨコハマ ギャングスタア パラダヰス 上

社に戻ると金髪美女が座っていた。
「あら###さん。おかえりなさい」
「おつかれさまです。春野さん、あちらの方は?」
「ああ、依頼人さんです
谷崎さんに連絡はしてあるので」
「ふーん」
「どうかしたんですか?」
「…いえ。なんでもありません」

座り方から腰のホルスターに予備の銃弾、脇より少し下に若干の膨らみには拳銃…といったところか、そしてほんの微かに香る硝煙
間違いなく堅気じゃない。
みきは冷静に観察、分析しすべき行動を判断する
かつて呼吸をするように条件反射で思考し頭と体が動くように教育された故だった。

まあでもこれくらいなら太宰が容易く見破るに違いない。その点私と太宰はよく似ていたし太宰が同じような境遇と言う根拠である
「春野さん、日差し眩しくない?ブラインドさげていいかな」
「私は構いませんが」
金髪美女さんにも同意を求めるため笑いかけた
「……構いません」
狙いは太宰か?しかし太宰ならこんな真正面からは通用しない。はてさて、何が目的か……
ビルの外に怪しい人物は見当たらない。
しかし、もしも私がこの建物を監視するなら……いた。十五メートル先、古いアパート四階部分
日差しは眩しいが窓を開けるには幾分か肌寒い。カーテンもなく、しかもあの区画は治安の良い場所ではない。見張るなら適しているが目を付けた相手が悪かった。この武装探偵社にそこいらのチンピラやそれこそマフィアの下っ端など相手にならないのだ。
目的は分からないが監視している者の位置なら把握した。あとは太宰たちの帰りを待つのみだ。

「えーと、調査のご依頼だとか」
「美しい……」
谷崎君を遮るように太宰が割って入る加えて心中の誘いまでするものだから自席にいた私は思わず手が出た。…否、正確にはペンをさながらダーツのように眉間を狙い投げた
「っ!いたい!!痛いよ###
もしかして嫉妬かい!?嫉妬してくれたのかい」
「ごめんなさい。忘れてください」

###が嫉妬してくれたと喜ぶ太宰を引きずり別室へと連れ込む
やましいことするわけじゃない!断じて!!
連れ込んだ部屋の中は資料置き場となっていて床に段ボールが積んである。とりあえずそこに並んで座った。この距離なら大して外を気にせず話すことが出来る

「…で、あの金髪美女さん何者」
「おや、やっぱり###は気づいたんだね」
「太宰の後輩?」
「まあそうなるだろうねえ」
「ふーん
でも狙いは太宰じゃないみたいだけど」
「私にもさっぱりだね。本人たちに聞いてみるしかない」
さっぱりだという割に予測ついてるんじゃないのと勘ぐってしまうが、確証もないのにこの男がぺらぺらと推測を語るわけもない。ある程度の情報と信憑性のある事実がなければ。今はそれのどちらも足りていない。

「それから、十五メートル先のヨコハマハイツ402号室に不審人物を視認した。私はそっち確保した方がいいかな」
「今日はそのまま帰るんじゃなかったのかい」
「帰れるわけないでしょう。
敦君は今日が初日だし、谷崎君だって戦闘向きの異能力じゃないじゃない」
「気に入らないな
君は他の人間ばかり気にして」
「……嫉妬だ」
「悪いかい。君は昨日から敦君ばかり気にしてる」
「それは、太宰が助けてきたからだよ
太宰が敦君を気に掛けるから私もそれを手伝いたい…そう思うだけなんだけど、迷惑?」
「…###、それはずるいよ」
太宰は深く溜息を吐いた。

堅気でも堅気でなくても普通の男の人に通用する手管は太宰にはお見通しだった。見透かし、返ってそれを利用される。日々のやり取りでも染みついた言動は時折癖のように出てしまう。それを太宰は酷く嫌う。だから太宰を好いていると(ただならぬ葛藤があったが)認めた時にそれも矯正しようと決心した。それでもなかなか癖は抜けるものではなく太宰が不機嫌になると決まって悪い子を諌めるように言うのだ。
「素直に、思ってるそのままを口にしてごらん」と。

今困ったように眉を下げ微笑む彼は照れているのだ
私の本心はどうやら誤算だったらしい。以外にも彼は不意打ちに弱い。すべて計算づくしで滅多に物事が予測の範囲から外れないからだろうか

「私が行くけどいいよね?敦君達のことはお願いね」
「…無理をしてはいけないよ。###には今夜予定が出来てしまったんだから」
「…ばーか」
太宰の言うことが理解できないほど私は純粋でも初心なねんねちゃんでもない
「むっつりすけべ」
些細な反抗としてこの一言が私の精一杯だった






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