あの子が欲しい

Barから目隠しされ、車に乗り込み数十分
連れられたのはポートマフィア本部、最上階。首領・森鴎外の執務室だった
「中原君ご苦労だったね
…で、君が“遠藤周作“君だね。報告は受けているよ」
「遠藤###です。その名は捨てました
…お久しぶりですね」
森鴎外はにっこりと笑んだ
「そうだね。会ったのは私がまだ先代首領の主治医をしていた時だった
あの頃は真逆女の子だとは思わなかったけれど」
手を組み口元は笑みの形のまま目だけがゆっくりと細められる
場の空気が冷たく張り付いたものに変わる
…恐ろしい。これがポートマフィアの首領か
久しく感じていなかった緊張感だ

「…さて、6年前。
君が流した情報によって横浜沖を縄張りにしていた君の古巣とマフィアが衝突した。彼らは行方をくらませ、探し、追い詰め…気づけば決着まで3年も掛かってしまった。しかし、組織を束ねていた蓮実聖司は死なせるにはあまりにも惜しい存在でね」
「手打ちとして彼の教育していた子供たちをマフィアに差し出させた」
「そうだ。
あと、横浜への出入りも禁じてね」
「…解せませんね。
利益がないように思います」
「彼を生かすことがかい
そんなことはないよ。現に君はここにいる」
「…!
生かして泳がせる方が有益であったと?」
###の言葉に森鴎外はにこりと笑った…肯定である
「彼が生きて君を探すことは酷く厄介だろう?
彼が有能で最大の障害であることは他の誰よりも君が知っている」
「私を誘き出すために彼を生かし続けたと?」
「蓮実君から預かった子たちは非常に有能だがそれを指揮する、使役するものがいなければ効果は半減してしまう。現に細かな不満は燻っているようだし」
森鴎外がちらりと視線を中也に向ける
中也は決まりが悪そうにがしがしと頭をかいた
…中也ね、あとは圭介が上司と言っていた樋口もあの様子では難儀していそうだ。思い浮かぶ顔はどれも従順とは言い難い者たちである

「君は蓮実君の後継者として教育を受けてきたんだろう。
是非とも彼らを指揮した部隊を作りたいと思っていてね」
どうだいと言うが、…これ拒否しようものなら即刻、処刑or蓮実の元へ強制送還は間違いないだろう
だけど…イチかバチか
「…恐れながら」
「ん?」
おい、馬鹿っと後ろから中也の声が聞こえるが無視!!
ポートマフィアで一生飼い殺しなんて無理
恩人も恋人も仲間も探偵社での自分も捨てたくない
戻りたくない
かつての仲間も父代わりもいらない
私は私の歩みたい道が見つかったのだ。
そうだよね――…怜花

「…そのお話、私に何の利がありましょうか」
「…利か。何か望みがあるのかい」
「そうですね、蓮実聖司の首――なんてどうでしょう」
「ほう」
「万が一、このお話を引き受けたとしても蓮見が生きている以上私が率いても結果は同じかと。現に早水圭介は“連れ戻す“と言ったのです。蓮実の意思と恐怖の念が彼らに根付き、今も彼の意思に従っている証拠です」
「なるほどね
じゃあ、捕らえた君を餌に彼をマフィアに勧誘するのはどうかな」
3年前は君を探すからと断られてしまってね。なんて言うがポートマフィアの首領としては事態を引き起こした張本人の処刑を望んでいたはずだ。そしてそれをマフィアへの恭順か下手人の処刑かの二択で迫ったに違いない

「乗ってくる確率はかなり高いでしょうね
あの男の私に対する執着は異常ですから」
私の返答に満足したのか、中也にもういいよと告げた
「少し考えさせてもらうよ
君の使い道は色々とありそうだ」






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