彼は優しい。
そう彼を知っている人は皆口を揃えて言う。
先日彼の家で開かれた酒の席に偶然居合わせてしまった時も、酔い潰れた同僚を介抱する姿を、文句を言いつつも嫌な顔もせず笑っている彼の姿を、見てしまった。
なんとも言えない感情が俺の中をぐるぐると巡っていく。
彼の良さを判ってもらえる嬉しさと、独り占めしたい子供ながらの嫉妬が、混ざり重なり歪んで一つになった、そんな感情が。

「…藤田?」
「うおっ?!え?なんで…ケンジ?!」
「おう!」

瞑想空想をしながら自宅へと向かう帰り道。
まだ仕事中であるはずのケンジの突然の登場に思わず声を上げた。
スーツに身を包んだ彼は幼い頃より見てきた彼とは別人のように見えて、少し怖くなった。
きっと俺の知らない彼がまだまだたくさんいて、俺が知ることが出来るのは砂漠の中の一握の砂粒くらいでしかなかった。

「…ケンジは変わっちゃったな…」
「は?どこが」
「んー…なんてゆうか俺とは違って優しい大人になった」
「なんだよ、それ」
「なんとなくそう思っただけ」

肩を並べて歩くケンジの方を向き、笑顔を装ってみせた。
パタン。昔からの携帯を弄る癖のあるケンジが俺を真剣な眼差しで見つめたまま、携帯を閉じた。
弄ることがなくなった携帯はケンジのポケットにねじ込まれる様子をぼんやりと見つめていた。
それは何処かどんどん先に行くケンジに置いていかれた俺に、惨めに思えて仕方がなかった。
だから思わず俯いてしまった時に、身体を揺らす反動に驚き顔を上げると、至近距離でケンジの視線とぶつかった。
それもどこか意地の悪い大人の表情で。

「藤田が思っている程、優しくないぜ」
「だって…皆が言うんだぜ!ケンジは優しいって」
「へー…。でも俺、博愛主義で自愛主義なんだわ」
「は?」

「お、その顔傑作」と笑う隣の意地の悪い大人が腹立たしくなり、肩にあった彼の甲に爪を立たれば、わざとらしく痛がってみせたが、離れる様子はないらしい。
じゃあ何故、と幼い子供のように聞くことが少し口惜しい気がして、声に出さず彼に訴えてみる。
勿論テレパシーなんてものが彼に使える訳でもないのが、それなのに彼は嬉しそうに子供の頃と変わらない笑顔で俺の手を強く握り締めた。

「俺が損得考えないで大切にしたいと思うのはお前だけだよ」
「…なんだよ…それ」
「俺ってさ、結構損得や利益とか考える奴なんだ。こいつに優しくすれば得かも、てな。だけど藤田のためなら無条件でなんでもしたい、て訳だ」
「…こ、どもだから?それとも幼なじみだから?」

いつの間にか繋がれていた手に力が入り、強く握り返す。
久しぶりに繋がれた手は微かに震えていたのは気のせいだろうか。
夕闇に染まり街を赤く照らす太陽のせいで、頬が顔が熱いのだろうか。
そんなことの答えなんてとっくに出ていた。きっとずっと幼い頃に………


「違うぜ。藤田だから、大切にしたい」
「…なんかそれ、告白みたいだな…」

不器用な告白をわざと茶化せばケンジは軽く額をこづき、「ばーか。告白だ」と微かに頬を染めていた。
俺らの距離は確かに縮まった。



博愛≠優しさ





10.0325 宇井あさみ

選択お題『博愛≠優しさ』
社会人×高校生パロ

...あとがき...
ケン藤で社会人×高校生という設定で書かせて頂きましたが、全く生かせていませんね……
とりあえず年の差のある二人を書きたいな、と思いました
原作とは違う設定、パロディになっても日和キャラは美味しいですよね!

これからも日和の輪が広まっていくことを切に願ってます
最後まで読んで下さり、ありがとうこざいました


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