ドォン。
本来なら吹き飛ぶような衝撃が、手首から肩に疾しる。
「…。」
だがそれに動じることもなく、MASUDAはまた弾を装填する。
黒かったコートは、いつの間にか錆色に染まっている。
「 。」
口を開けど、言葉はもう出てこない。
「 、 。」
もう、喋る言葉すら忘れてしまったから。
がこん。
ドォン。
また銃声。
「…。」
命が散っていくのが、銃身越しに伝わってくる。
人を殺すのはもう怖くない。
慣れた。
そう言ってしまえばお終いだが、実際そうなのだから、
がこん。
ドォン。
「 、 。」
仕方ない。
「 、 。」
仕方が、無いんだ。
殆ど動かない足を引きずり、一歩踏み出す。
「……。」
もう、誰もいない。
敵も味方も、皆いなくなってしまったから。
「……。」
ずり、と足を引きずる。
「……?」
ふと、足を止める。
倒れた兵士の側に屈み込む、大きな白い袋を持った一人の男を見つけた。
「… ?」
顔は見えない。
だが、
がこん。
ここに居る以上、
「 …。」
殺さないわけには、いかないのだ。
カチッ
銃口を、頭に突き付ける。
「……ん。」
そこでやっとこちらに気づいたのか、男は顔を上げる。
「あれ?」
後頭部に突き付けられた銃をそっと払いのけ、男は振り返る。
「MASUDAじゃない。」
どこか哀しげな雰囲気を漂わせる笑みで、
「 !!」
「どうしたのさ、言葉でも忘れたのかい?」
男、もとい増こうは答えた。
「ま、すこ、う?」
なんでここに、とMASUDAはぱくぱくと口を動かす。
「何でって、視察、みたいな。」
「お、まえ…な…。」
声が徐々に戻っていく。
久々に声を出したせいで、喉が痛い。
「厳密に言えばさ、視察じゃないんだ。」
増こうは言う。
「お前を、迎えに来た。」
「は…?」
訳が分からない、と呆然とするMASUDA。
「な、んで…?」
「なんでも何も無いさ。」
ゆっくりと立ち上がり、増こうはMASUDAの両頬に触れる。
暖かい温もりが、ふわりと身体を包む。
「もう、いいんだ。」
そう言って、増こうは俯く。
「もう、終わったから。」
哀しげなその言葉に、MASUDAは銃を取り落とす。
ガチャン、と重い落下音。
「何よりお前、もうボロボロだろ?だから帰ろう、MASUDA。」
増こうが顔を上げる。
その頬には、
「俺の、分身。」
透明で綺麗な涙が流れていた。
「ま、すこう…。」
涙。
そんなものを見るのはいつ振りだろうか。
そう考えていたら、自分の頬にも涙が伝う。
「…そうか、」
戦わなくて、いいのか。
そう呟いて、MASUDAは増こうの胸に倒れ込んだ。
§
「…見える?MASUDA。」
「ああ。よく見える。」
あの日戦場だった、平原。
そこを一望できる小高い丘の上の大樹の上に、二人は座っていた。
「お前、あんなところで何してるのかと思ったら、こんなことしてたのか?増こう。」
「うん。でもさ、綺麗でしょ?」
二人の見下ろす先には、果てしなく花畑が広がっていた。
「こうすれば…あの人達も喜ぶでしょ?」
「一種の樹木葬―『遺伝子から組み変える』、ってか?」
ハッ、とMASUDAは笑いとばす。
「そんなん、お前の自己満足に過ぎんだろ。」
「なんとでも言えよ。」
ぷぅ、と増こうは頬を膨らます。そして目を細めて、
「俺やお前、そして皆が幸せなら、それでいいんだよ。」
花畑の真ん中にある白い碑を見つめながら、笑った。
遺伝子から組み換える
10.0630 外畑零雨様
選択お題『遺伝子から組み換える』
戦争パロ
...あとがき...
〆切りギリギリになって焦る典型的パターンに…。
CP意識は薄めですね、どちらかと言えば+かと。
そもそも選んだパロがパロなので浮いてるのが目に見えてますが…まぁ、自業自得ですね。
企画を立ち上げて下さったういあさみ様、参加させていただきありがとうございました!