線路沿いに伸びる金網フェンスに指を絡めながら小野さんは言った。
「線路が一本しかないって、なんか終わってるよね……」
遠くの山から気の早い蝉の鳴き声が聞こえる。
部活が終わると決まって小野さんと一緒に帰るようになったのはいつからだったろう。確か高一の夏休み前からだ。
あれからもう一年も経つ。僕は二年に、小野さんは三年に。
「別に不自由してませんけど?」
僕らが住む町は確かに小さい。
周りは山に囲まれ電車は一時に一本、コンビニは町外れに一件、スーパーなんて隣町に行かないとない。
「曽良君はこの町が好きなの?」
「まぁ、そこそこに」
「僕はあんまり……」
「じゃあ都内の大学受ければいいじゃないですか。まぁ小野さんの頭で行ければの話ですけど」
「か、仮にも受験生に辛辣すぎるよ」
「事実なので……」
小野さんはガックリと肩を落として歩き始めた。
僕は小野さんの背中で揺れているギターのソフトケースを眺めながら半歩下がってついていく。
最近梅雨入りしたばかりで空気が湿っぽく、少し歩いただけでも汗が出る。
よく見ると、小野さんの綺麗な項が汗で湿っていた。
つい手を伸ばして触れてみたくなる。
「曽良君」
急に小野さんが振り返るので、驚いて僕の肩が揺れる。
僕は動揺を隠すために思わず舌打ちをしてしまった。
「えっ!?なんで!?」
「急に振り返らないで下さい。ビックリするじゃないですか」
「じゃあ今度からゆっくり振り返るよ……ていうか、もう踏切だから……」
小野さんの家は踏切を渡った先にある。
いつもこの踏切に着く頃、一時間に一本の電車がやってくる時間だった。
警報器の鳴り始めた踏切を小野さんは急いで渡り、僕の方へ振り返る。
栗色の綺麗な髪がふわりと揺れた。
「曽良君!じゃあまた明日ね!」
「小野さ……」
電車が轟音と共に僕らを遮断する時、僕はいつも線路の向こうへ思い切り叫ぶ。
「…………!」
走り去る電車を見送ると、小野さんはいつも不思議そうにこちらを見ている。
この顔を見るのはこれで八回目。
「曽良君、いつもそっち側でなに言ってるの?」
「……秘密です」
僕は小野さんに背を向け歩き出した。
背中には小野さんの視線。
「変なの」
小さく聞こえた小野さんの言葉を聞かないふりをしてそのまま歩き続けた。
遠くの山からは気の早い蝉の鳴き声。
電車は一時間に一本。
先程まで一緒だったのはそんな田舎が嫌いな、都会に憧れている部活の先輩。
(好きです。だから遠い所へ行かないで下さい)
いつか電車が通らない時に伝えられるだろうか。
そんな事を思いながら金網フェンスに指を絡める。
線路の先を眺めると、小さくなった電車は夕日を背に雑木林へ消えていった。
空振り連続8回目
10.0426 おざわ様
選択お題『空振り連続8回目』
学パロ
...あとがき...
初めまして!おざわと申します。
大好きな曽妹を全力で書けてとても楽しかったです!(俺得すぎてすみません)
内容的にはクッサー!な青春ストーリーを目指したんですが、自分の力の無さっぷりに落胆……
少しでも楽しんで頂けたら幸いです。
皆様の素敵な作品の中に私の作品が一緒に並んでいるだけでも一人ニヤニヤしてしまいます……
素敵な企画に参加させて頂き、本当に、本当にありがとうございました!