『ばっしょさん』

『…何かな閻魔君』

『ここに読んだ理由、分かる?』

『…もしかして』

『うん、ついにその時が来たよ』

『……曽良君は?』

『彼もその後すぐにその時が来る予定なんだ』

『…すぐっていつ?』

『それは教えられないなぁ』

『…そっか』

『でもね、きっと会えると思うよ?
君たちには何か強い絆を感じ『大王!』

『…?』

『少し言い過ぎちゃったかなぁ……。
じゃあ、また会おうね…ばっしょさん』

『…うん』

『では芭蕉さん。こちらです』

『うん。ありがとう鬼男君』



このやりとりを私は最近のことのように思い出す。
私は今大学二年生だ。
国文科で、かつて俳句で有名だった私、松尾芭蕉について調べることになっていた。
私は前世の記憶が残っているらしい。
しかもはっきりと覚えており、私は弟子たちの顔や性格、俳句などを今でも覚えている。
それは奥の細道の旅でお供をしてくれた曽良君も例外ではない。
曽良君とは恋人で、一番彼との思い出を語れる自信がある。
ただ、私は何かを忘れている。
私が一度死んでしまう前一度会った時に、私は彼に何かを言った記憶がある。
とてつもなく大事な約束だった気がするが、その約束を覚えていないものだから大事だとはっきり言うことは出来ない。

そういえば、彼も転生をしたのかな…。
閻魔君はすぐに転生して、また会えると言っていた。
それがいつ会えるのか、私は今までずっとその機会を待っていた。



どんっ



「……っ」



考え事をしながら歩いてたらしく、前から人が歩いていたのが見えなかったらしい。
私は青年とぶつかってしまったらしい。



「わ、ごめんね!
怪我とかないですか?」

「……ええ」



…この声、聞き覚えがある。



「…よかったぁ。
君に怪我を追わせちゃったら断罪をくらっちゃうからねー」

「……断罪、ですか?」



ぶつかった青年の顔を見ながらつい言ってしまった。

何故私は青年に断罪という言葉を言ってしまったのだろうか。
彼は不思議そうな顔をしている(実際は無表情なのだが、雰囲気でなんとなく分かった)。
それにしても分かりにくい表情だ、と私は思った。



「うん…君を見るとつい断罪されるかと思って……」



そう言った後、彼はニヤッと口元を上げ、がしっと私の腕を掴んできた。



「…随分懐かしいですね、芭蕉さん」

「そうだね曽良君……って曽良君?!」



どす、と私のお腹に随分重いチョップが入る。
この感覚がとても懐かしい。



「ぱろでぃっ!」

「相変わらず煩いジジィですね」

「ジジィじゃないやい!」



心なしか、彼は優しい雰囲気を放っている。
間違いなく彼は曽良君だ。
そう認識すると、涙がとめどなく溢れてきた。



「曽良君だ…曽良君、会いたかったよ!待ってたんだよ!」

「…今はジジィではないんですね、芭蕉さん。
今まで僕以外の人に断罪されませんでしたか?」

「…なんか最初から嫌なことを言うよね君は……。
曽良君以外に私を断罪する人なんかいないに決まってるでしょ?」

「そうですか…安心しました」

「なんで安心するのさ…」



あんなに待ち焦がれていた、愛しい彼に会うことが出来た。
閻魔君の言っていたことは正しかったんだと思うと余計に涙が止まらなかった。



「…何時まで泣いているんです」

「……うぇっ、…ひっく」

「仕方のない人ですね…全く」



そう言って抱きしめてくれる曽良君。
このぬくもりも懐かしい。



「…芭蕉さん」

「……ん?」

「僕は、どうしても守らねばならない約束を果たしに来ました」



真剣な眼差しが私を捉える。
約束と聞いて、先程前方不注意になるきっかけとなった考え事を思い出した。
以前私は彼と何を約束したのだろうか。



「…曽良君?」

「その様子だと覚えていませんね。
あんなに泣いて言ってたくせに」

「…え、嘘泣いてたの私?」

「はい。そりゃもう、鬱陶しいくらいに」

「鬱陶しいて君…」

「いいですか?
貴方は僕に確かにこう言いました。
また俳句を一緒に詠みたい、と。
僕は貴方にこの約束を果たしに来たというのに貴方ときたら…信じられませんね全く」

「やくそく…ごめん、思い出せないや」



気分がショボンとなる。
その時、頬に痛みが走った。
曽良君に頬をつねられていた。



「……いひゃいっ」

「まあいいです。
死ぬまで一生離れるつもりなどないんで、これからゆっくりと約束を思い出させてやります。
なので、僕の居ない所で勝手に死なないでください」

「……そらくん」



当分、私は彼にどんな約束をしたのか思い出せそうにない。
でも、こうして再び出会えたことを嬉しく思わなきゃ、かの閻魔大王様に失礼だよね?



「……くしゅんっ」

「…大王、風邪ですか?」

「いーや、誰かが俺の噂でもしてるんじゃない?」





おわらない詠を謳おう





10.0424 橘亜紀様

選択お題『おわらない詠を謳おう』
転生大学生パロ

...あとがき...
初めまして!
この世界にどっぷりハマってまだ2ヶ月のホヤホヤですが、恐れ多くもこの企画様に参加させていただきました。
既に提出された何作品かを見ていて、果たして私の話がその仲間入りをしてもいいのかと思いましたが、企画様に恥じないよう考えました!
企画を立ち上げてくれたうい様にここでお礼を言います。
素敵な企画をありがとうございました。




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