出会うのがもう少し早ければ、生まれるのがもう少し早ければ、僕が僕じゃなければ世界はきっと輝いてた。
綺麗な教会に、大きなステンドグラス、澄んだ音色の鐘、幸せな夫婦…今日は、僕の恋の命日だ。




話は数ヶ月前に遡る。
姉から「今日は早く帰ってきてね」というメールが届き、やっとガサツな姉に春が来たかと浮かれた気持ちで帰宅した。いつもよりも綺麗な姉が出迎えてくれて、ただいまと笑えばおかえりと返してくれた。そしてそっと姉が僕の耳元で囁いた。

「びっくりするかもしれないから先に言うね…あの、鬼男の家庭教師してくれてた先生いるでしょ」
「閻魔先生?」

首を傾げた僕に幸せそうに笑った姉が死刑判決を下した。

「閻魔さんが鬼男のお兄ちゃんになるのよ」

ばさりと落ちた鞄の音がやけに大きく聞こえた。
その後のことはよく覚えていない。ただ気がついたらいつもより豪華な食卓に着いていた。
久しぶりに会った先生は相変わらずかっこよくて、その柔らかな微笑みは僕ではなく隣に座る姉のものだということに予想以上に傷付いた。だらだらと心から血が流れ続ける僕に何も知らない先生が「これからは"兄さん"って呼んで欲しいなぁ」と恥ずかしがりながら言った時に「絶対に兄さんなんて呼ばないッ!」と叫んでしまった。
…我慢出来なかった。その自分が愛してやまない声で、笑顔で、恋愛対象にすら上ってないことを突き付けないで欲しかった。
僕はそのまま先生に背を向けて走り出した。後ろで母さんが「そういうのが恥ずかしい歳なのね」と笑った声が聞こえた。違う、そうじゃない。これはそんな可愛いものじゃない。醜くて、ぐちゃぐちゃで、太陽の下にはとても出せないような…汚い嫉妬だ。
どうして僕は女じゃないんだろう、姉さんよりも…世界中の誰よりも貴方を愛することが出来るのに。一人で泣いて、泣いて、涙が涸れるんじゃないかと思った。


それから僕は先生を避け続けた。会いたくなかったと言えば嘘になる。会いたかった…あの笑顔が見たかった、でもそれ以上に先生が自分以外の人と幸せそうにしているのを見たくなかった。


結婚式当日、僕は先生の控え室に足を運んだ。先生は驚きながらも白い部屋に通してくれた。
時間まで暇なんだと幸せそうに微笑む白いタキシードの先生が僕には眩しくて思わず目を細めた。

「…先生は、死後の世界って信じますか……」
「…死後の世界…?そうだなぁ、漠然とだけど信じてるよ」

こんな名前だしね、と笑った先生に笑った。

「先生…僕、実は留学しようと思ってるんです。多分もうあまり会うことはないと思います」
「…え、留学…?」
「…先生、僕は先生が好きです。でももうやめます。幸せになって下さい…………兄さん」

先生の目が見開かれた。
頭のいい先生だから、全てを分かってくれたのだろう…何かを言おうと開いた唇は何も言葉を発することなく閉じられた。

「死後の世界が本当にあったら、そのときは…………」

そのときは周りを気にせずに貴方を愛したい、告げたかった言葉は声にならなかった。
片頬に何かが伝う感触を感じ、そのまま部屋を出た。

美しい教会を見ながら、二人の幸せを願った。




死んだら愛すよ





10.0404 らん様

選択お題『死んだら愛すよ』
義兄弟パロ

...あとがき...
設定が凄くマニアックで、しかも悲恋物ですみません…。それでもいいよと言って下さった宇井様には頭が上がりません…!読み終わった後にこの鬼男くんの気持ちになってバナーに書かれた文字を読んでいただけたらもう完璧です。
素敵な企画に参加させていただき本当にありがとうございました。




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