それは、少し昔の話。


進学の関係で、親戚の芭蕉さんの家に世話になることになった。小説家であり、尚且つ未婚の芭蕉さんは快く引き受けてくれ、早速今日から住むことになった。荷物を持って門をくぐると、笑顔で迎え、そのまま家の構造を説明してくれた。

「―――で、ここが曽良くんの部屋。好きに使っていいから。…あ、それと!」

思い出した、と言わんばかりに芭蕉さんが付け加える。

「屋根裏には絶対行っちゃ駄目だからね!」
「何故ですか」
「え、何故って…」

そこで言葉を詰まらせると、言っても曽良くん多分信じないし…とか、そもそも私も信じてる訳じゃないし…とかよく分からないことをブツブツと呟く。

「と、とにかく行っちゃ駄目だからね!」
「何故僕が芭蕉さん如きに指図されなくてはならないのですか、不愉快です。」
「不愉快って君…」
「…まあ、いいでしょう。分かりました。」
「いや、だから何で君そんな偉そうなの…。一応私目上なんだから敬意ぐらい示してくれても…」
「生憎、芭蕉さんに示すような敬意は持ち合わせていませんので。」

松尾バションボリ…などと言っている芭蕉さんに、それじゃあ、と声をかけ僕は階段を上った。

予想に反して其処は普通の屋根裏だった。禍々しい器具が有るわけでも、貴重な物が鎮座しているわけでもない。何か期待を裏切られたような気がして、辺りを探索してみた。
すると、奥の方に一カ所だけ他と違って埃を被っていない場所があった。
傍によって、ライトで照らす。と、其処には人形が棺に入り横たわっていた。
人形というよりは、人が眠っている、といっても差し障りないと思う程、人間のようだった。

(何だ、コレ…杭?)
人形の胸には木の杭が深々と刺さっていた。
昔、本で読んだ吸血鬼を思い出す。心なしか服装もそれらしかった。

(―――抜いたら、動き出したりして。)
軽い気持ちで杭に手をかけ手前に引く。
正直人形とはいえ、胸に刺さった杭は見苦しい、という気持ちもあった。

思いの外杭はしっかり刺さっており、両手を使う。

ズルリ、
抜けたと思ったその時、人形の睫毛が少し震えた。


「……!?」
驚いて少し後ずさる。人形――と思っていたソレは数回瞬いて、上体を起こした。
ゆっくりとした動作で此方を向く。


その目は、紅かった。


「…ッッ、な、に…?」

ソレはヒュ、と短く息を吸って徐に口を開いた。

「君、名前は?」
「曽、良で、す…。」

「じゃあ、曽良くん。今、何年の何月何日?」

口頭で述べる。

「10年ちょいか…。ありがと、んー、結構寝たなぁ。」
「あ、の、アナタは、誰ですか?」

すると、相手は少し驚いた様子を見せた。
「え、君、知らずに杭抜いたの…?」

了承の意を示して頷く。

「あー…誰だと思う?」
「格好は吸血鬼みたいだと思いました。」
「お、ご名答。そっか、知らなかったか…、困ったな。」
「何がですか?」
「吸血鬼って、喚び起こした後は、契約しなきゃいけないんだ。」
「契約?」
「そ。吸血鬼が召喚者の血を飲んで契約完了。吸血鬼は召喚者を守るのが仕事。」

普通は契約することを前提に起こされるから、と彼は続けた。

「…別に、僕は構いませんが。」
「え?」
「契約ですよ、原因は僕ですし。…それに、貴方は僕を守ってくれるんでしょう?」
「まあ、そうだけど。…本当にいいの?」
「ええ、構いません。」
「じゃあ、やるよ?ちょっとチクッとするかもしんないけど。」

そう言って彼は僕の首筋に噛みついた。少しピリピリする。子犬に甘噛みされた時のようにむず痒かった。


「…ちゃんと、守ってくれるんでしょうね。」
「モチロン。お任せください、ご主人サマ?」

そう言って、彼は微笑んだ。




屋根裏部屋の秘密
(誰も知らない、僕と彼だけの)




10.0404 南様

選択お題『屋根裏部屋の秘密』
吸血鬼×学生

...あとがき...
滅茶苦茶趣味に走りましたごめんなさい。
素敵作品の中で悪い方向に浮きまくりな気がしてなりませんが書いてて楽しかったです。
この度は素敵企画に参加させていただきありがとうございました!




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