「大王」

きみがそう呼ぶ度に、思い出す。
きみは覚えてない、
俺だけが覚えてる。

それがただ、悔しい。

そりゃ、転生前のことを覚えてる方がすごい。
てゆーかそんなのあり得ない。
でも、でも。
やっぱりそんなの理不尽すぎる。

冥界でのことを忘れてしまったなんて、悲しい。
きみのこと追ってこの世界に無理言ってまで来て。
冥界でのことを俺だけが覚えてて。
俺だけがいっぱいいっぱいで、悔しい。


「大王。」

ああ、そう。
そう呼ぶ度に…。

「おいコラ無視か変態大王イカ。」
「……え、お、鬼男くん!?」
「なにボーッとしてんですか全く。手を動かせ、手を。」
「うは、はははは…。」

そうだ。
俺はいまこの世界で、『生きいてる』。
愛しい愛しい、俺の秘書と、共に。

じ、と鬼男くんを見る。
あー、きれいだな。かっこいいな。かわいいな。

「…なんですか変態。」
「…きみは…。」
「だいたい宿題するから教えて、って言ったのはあなたでしょう。」
「いやまあそうだけど…。」
「学年いっこ上なくせに。」
「まあそれはそれで。」
「ほんとは頭いいくせに。」
「あは、バレてた?」
「当たり前です。なのになんで僕なんかと勉強したがるんですか。」

ひとりで頑張ってくださいよ、と素っ気なく言われる。

「えぇー。わかんないの。」
「いつだって大王の言動は意味不明です。」
「相変わらず辛辣。」

あー冥界でのことを思い出すなぁ。
あのときはあのときでしんどかった。

「はやく手を動かしてください。」
「ねぇ鬼男くん。知りたい?」
「なにをですか?」
「どーして俺が鬼男くんと勉強したいか。」

黙りこくる。
これは早く言え、っていう意味ととらえよう。

「…別に。別に深い意味はないよ。」
「………ぶっ殺すぞ。」
「いやんこわい。」

なんだよそれ…とぶつぶつ言いながらも宿題に取りかかるきみ。

「俺がほんとのこと言ったとでも思ったの?」
「はい?」
「んーん。何でもないよー。」
「口じゃなくて手を動かせ、手を。」
「その言葉聞き飽きたー。」
「僕も言い飽きましたー。」

可笑しくなりふふ、と笑う。
ああ、思い出すなぁ。
でもきみは忘れてるんでしょう?

『愛してる』

そう交わしたことも。

なんにも覚えてなくて、深い意味なんてなくて俺に接してる。

ああ、悔しい悔しい。

「鬼男くんてばひどーい。」
「どこがですか。」

俺の言葉ひとつひとつに、深い意味があるなんて、知らずに。





敢えていうなら人でなし
(きみは最愛で最悪なひと)





10.0404 サダメ様

選択お題『敢えていうなら人でなし』
学パロ

...あとがき...
やっと書き終わりましたー。あんまり閻鬼っぽくないですがそこはまあ閻鬼ということで。
企画者の宇井あさみさま、こんなに素敵な企画をたちあげてくださりありがとうございました!
そしてここまで読んで下さった皆様、本当にありがとうございました!こんな駄文ですが、気に入っていただけたら幸いです。




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