Let's cooking!
恋人と過ごす時間は何よりも至福だと思う。 どんなに疲れていたって、あっという間に忘れちまうし、なにより嬉しい。 何度か任務帰りに食事をしたが、その時の可愛さは半端ない。可愛すぎて困る。 いや、普段から可愛いのだが食欲に従順忠実に食事をする姿は小動物を思わせる。 もちろん、二人っきりの時。 二十歳を越えた男がいうのもなんだが、一般的なの学生時代をフランとしてみたい。 昼休みに屋上や中庭なんかで、フランの作った手料理を共に食べる。
…最っ高じゃんっ!!
だけど、いくら願っても無理な訳で。なら、学生時代というのを無しにして同じシチュエーションを味わいたい。
「そういうことで、フランの手料理食いたい」
「"そういうこと"ってなんなんですかー…」
俺が差し出した食材の入ったビニール袋を胡散臭げにフランは一瞥した。 困ったような表情、それを越えて引きつつある。
ビニール袋の中には、卵と鶏肉、玉葱にケチャップ、調味料。フランは基本的に料理をしないから、二キロ分の米。 部屋の簡易キッチンには、調理用具が備え付けられているから必要無い。
笑顔で扉一枚越しにいる相手にハイ、と押しつける。 俺の顔と袋へと視線を何度か往復をする。小さい子が横断歩道の左右を確認する仕草に似てる。 勢いよくフランがドアノブを掴んだ。
ガチャンッ
「っ〜〜〜〜!!」
部屋の扉を容赦なく閉められた。 反射神経のいい俺は慌てて扉の隙間に足を踏み入れる。そのお陰で、閉ざされることは無かったが…。 痛いんだけど、マジで。
阻止された、一瞬動作が止まったが、尚も必死にドアノブを掴むフラン。
(そろそろ本格派に怒鳴りたくなってきた)
僅かに開いている隙間に手をかけ、無理矢理こじあけた。
「観 念 し ろ」
――――――――――― ―――
素直に従った方が楽だと気付いたフランは、あっさりと料理支度を始めた。
「で、何作ればいいんですかー?」
「オムライス♪」
簡単なメニューに安堵したのか頬を緩ました。 理想は弁当だが、手間がかかるので止めておいた。 テキパキと手を動かし始めるフランに、今更ながら料理が出来るのか心配になった。 なにしろ初めて見るのだから。
「フランって料理できるわけ?」
「なにを今更ー…
出来ませんよー?」
「ちょ、待て。その笑顔なんだよ?!可愛いけどな!今ので胸いっぱいになる!」
「最後はスルーする方針でいきますー」
「…愛いっぱいの手料理で死ねるなら本望かもし…」
「安心してくださーい、簡単なのは出来ますよー」
最後は自信たっぷりな口調で笑ってみせた。考えてみれば、フランは何かと器用だし質問したのが間違いだったのかもしれない。
鼻歌まじりに米を研ぐ姿は、見ていて和む。エプロン着せれば良かったかも。完璧、俺の趣味だけど。
炊飯器で早炊きすれば、30分ほどで米は炊き上がるので完全まで50分もかからないだろう。
ピッとボタン音の後に電子音が鳴った。それと同時に炊飯器が起動しだす。
「……。」
やることがなくなったんだろうな。 意味もなくシンク周りをいじるフランに、自分の座るソファーへと手招きする。素直にこちらへやってくるとポフっと隣に座った。否、一人分の前をあけた隣。
なんとも微妙な距離感だ。 近すぎず、遠すぎずのその位置はフランの躊躇い表れだ。感情の起伏の激しくない性格なのに、変に初々しいくて、いじらしい。
ただ、その距離感を受け入れる性格を、俺は持ち合わせてはいない。
「う、わ…」
華奢な肩へと体重をのせてよりかかれば、ぴくりと体が跳ねる。
(ししっ、かっわいー♪)
なんとも男心をくすぐる仕草だ。わざとやっているんじゃないかと疑う程に。 計算されていたとしても別にいいや。可愛いから。
膝の上で固く握られた両手を解すように指を這わせる。男の手にしては細くすべすべとした綺麗な手。 所謂、恋人繋ぎにしようと絡ませ…――
「冷てぇっ…!」
真冬の寒空を感じさせるほど、フランの手は冷たかった。 冷水で丁寧に米を研いでいたからだろうか。よく見ると指先は赤く色づいていた。
(温めてやりてぇ)
そう思った時には、すでに行動に起こしていた。
これでもかというほど見開いた翡翠色の目が俺の口元へと向けられる。
「んぅっ…!?」
なんかエロい…。フランが無自覚であげたんだろうけど、反則すぎる。
(…俺の突拍子もない行動も反則か)
行動を起こした張本人としては大したこと無い行動。けど、隣に座るのも躊躇うような人間からしてみたら心底驚くだろう。
隣に座る男が、自分の指をくわえているなんて。
「べ、ベルセンパイ!ミーの指は、食べ物じゃないですー!」
驚愕から抜け出せたのか、怒ったように凄んでくる。 上擦る声で喚くフランに迫力なんてありはしないが。 そもそも、言うことがズレているような…。 天然?可愛すぎる…!
啄むように、爪先にくちびるを落とすと、くたりと手から力が抜けた。 俺に反抗するのを諦めたようにされるがままだ。 なんとも利口な恋人だこと。
冷たかった手は、今では平熱以上の温かさだ。 でもそれ以上に、フランの頬は真っ赤だった。
(気の済むまで付きあってもらうからな)
炊飯器がつげるタイムリミットまでの時間を満喫しようと、フランの手の甲に唇をつけた。
Let's cooking!
(…オムライス出来ましたよー…)(ありゃ?)(なんですかー?)(ケチャップがハート型じゃないしっ!)(だからオムライス希望だったんですか…)
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花さんからのリクエストで「ベルフラ甘甘」です! 甘くないですね、すみません(>_<) 実は、オムライスにハートネタをやりたかった故にです← リクエストありがとうございました!
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