夏が過ぎればあっという間なもので、夕方にはすっかり冷え込んでしまう。外に出れば冷たい風が頬を撫で、綺礼は秋の訪れに目を細めた。

「寒い…なんなのだ、この気温は……」

きらきらとした粒子が視界を埋め、瞬きをひとつすると、それは人の形になっていた。ギルガメッシュは自分の体を抱きしめるように腕をまわすと、ぶるり、と寒さに震える。

「涼しくなって、過ごしやすくなっただろう」
「涼しく?なにを言っておるのだ。我は寒くて堪らん。早く部屋の中に戻ろうぞ」

そう言って、ギルガメッシュは自分の腕を擦った。それほどまでに寒いのか、と首を傾げて、そこでようやっと綺礼は気づいた。

「そういえば生前、お前は暖かい土地にいたのだな。なるほど、寒さにはなれていないわけだ」
「…我は今も生きているが」
「一度死んで受肉した体では生きているとは言わん」

きっぱりと切り捨てて、綺礼は空を仰ぎ見る。澄んだ空気は夜空の星をよりいっそう輝かせていた。ギルガメッシュはなにか言いたそうに暫く口をもごもごと動かしていたが、やがて黙りこんでしまった。

「……寒い」
「教会に入ればいいだろう」
「綺礼がいないではないか」
「私は星を見ているからな」

風が吹いて、ギルガメッシュの髪がなびいた。寒い、と呟く彼の体は微かに震えている。

「エミヤキリツグのことを、父親のことを、聖杯戦争のことを、後悔しているのか」
「まさか。私が知りたいのは私という存在だ。私がどういう行動をして、なにを失ったとしても、結果に繋がるのならば後悔はしない。惜しみはするがね」
「そうか、安心した」

くっと喉を鳴らした綺礼を見て、ギルガメッシュはわずかに眉尻をさげた。まったくこの男は、最古の王をとことん飽きさせない。

「ところで綺礼、我はやってみたいことがあるのだが」
「なんだ」

機嫌がいいのだろう、綺礼はギルガメッシュのほうを振り向く。光の灯らない目こそ、言峰綺礼の真髄なのだ。そんなことを思いながら、ギルガメッシュは口を開いた。

「あのな、昼にてれびというものを観ていたらな、雪山に男と女が遭難していたのだ」
「あぁ」
「それでな、ぴったりとくっついて、あったかいなどと言っていて」
「あぁ」
「今、我はとても寒い」
「教会に入れば解決する問題だな」
「そういうことではない!」

知っている、と綺礼は言った。口端を上に吊り上げた、嫌な笑みを顔に貼りつけて、つまり、と諭すように言葉を吐き捨てる。

「お前は私とそれをやってみたいと言うのだな」
「なんだ、ちゃんとわかっているではないか」
「私は畜生であれ外道ではあれ、阿呆ではないつもりだ」
「ほう」

こっちに来い、と綺礼が言うのでギルガメッシュは近づいた。夜空は美しく、きっと明日は晴れるに違いない、と考えていると、手首を掴まれ引き寄せられる。直後、冷たい手が背中に突っ込まれた。

「ひぇっ!」

英雄王から間抜けな声がもれる。ギルガメッシュの肌がぞわぞわと粟立ち、ぶるりと震えたあと、彼は綺礼を睨み付けた。

「なにをするのだ、綺礼!」
「お前が言っていたことだが?ぴったりと寄り添いたいのだろう」

だがしかし、私は今この通り冷たいのだが、構わないのかね?
そうして綺礼がくくっと笑うものだから、ギルガメッシュは顔を赤くして、いらぬわ無礼者!と叫んだ。



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「 言ギルで寒がりギルが綺礼にひっついて暖をとろうとする話 」でし た。ありがとうございました!

title: 失青

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