ぐつぐつと煮えたシチューをお玉でぐるりとかき回してから清潔な食器を取り出す。窓の外はとっぷりと更けっており、冷たいすきま風が肌を撫でた。


「おい、食事はまだか」
「今できるから待っていろ」


行儀悪くスプーンとフォークでコップを叩き演奏しているギルガメッシュに注意をして、スープを置く。作りたての温かさとシチューの芳ばしい香りが鼻をくすぐった。

「もう食べていいか」
「いいや、まだだ」

爛々と目を輝かせてシチューを見る英雄王に静止をかけると、むっと綺礼をじと目で睨んだ。

「我はおなかがすいたぞ」
「知っている。先ほど盛大に腹を鳴らしていたからな」
「じゃあ止めるでない!」

そう言ってガシッとスプーンを掴んだギルガメッシュはシチューを口へと運ぶ。綺礼が引き止める間もなく、出来立てのシチューはギルガメッシュの舌へと猛攻を開始した。

「あっつッ!!」

慌てて舌を押さえたギルガメッシュは涙目でふーふーと息を吐く。

「こ、こんな熱いものをこの我に寄越すとは…っ綺礼よ、どういう了見だ!」
「私はまだだと言ったはずだぞ。それを無視してシチューを食べたのはお前だ」

きっぱり言うと、ギルガメッシュは一瞬泣きそうな顔をしたかと思うと(この英雄王は時にすごく子どもっぽくなる)、俯いてちびちびと冷水を口に含んだ。

「なんだ、やけに素直だな」
「我に非があるのは認めよう。しかし空腹の我の前に熱々のシチューを出したそなたにも非があるのを忘れるなよ」

恨みがましく睨まれ、綺礼は苦笑した。

「では今度からは猫舌な王の為にも冷麺を用意しよう」
「この真冬にか?」
「冗談だ」


パチパチと暖炉の火が爆ぜる。まるで聖杯戦争中とは思えないほどの穏やかだった。綺礼の頭の中ではバッハの小フーガト短調が流れている。未だ舌が痛いのか、ギルガメッシュは涙目で舌を水で冷やしていた。


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「言ギルでほのぼの。ギルがかわいい話」でした。リクエストありがとうございました!


title:にやり

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