「おい待て綺礼」
そう言って上体を起こしたギルガメッシュに綺礼は疑問を抱いた。なぜ自分は止められたのだろうか。セックスをしようと言い出したのはギルガメッシュであり(綺礼が同性同士で交わるのか。と訊いたら王の命令ぞ。と理不尽なお叱りを受けたのである)、これからいざ事に及ばん、と押し倒したときにギルガメッシュは綺礼に制止を命じたのだ。
「なぜ止める」
「では訊くが、綺礼よ。なぜ押し倒したのだ」
「お前が交わりをしようと言い出したからだろう」
「……もしかしなくとも我が女役か?」
「体格的に考えればそうなる」
綺礼の一言にギルガメッシュがピシリと石のように固まったかと思うと、顔を真っ赤にして叫んだ。
「お、我のカラダを貧弱と言うのか!無礼であるぞ!」
「…どうやら私とお前の間で誤解が生じているようだな。アーチャーは私に女役をやれと?ただでさえ同性同士ということに抵抗もあるのに、私に女役をやれと」
「当たり前だろう!女役は苦痛が大きいと聞く。貴様はこの王に痛みを与えようと言うのか?許される道理ではなかろう。よって綺礼、貴様が女役だ」
光栄に思うがよい、とキラキラと無駄に眩しい王気を振りまいているギルガメッシュに綺礼は辟易した。なんというジャイアニズムだ。
「まあそれでも異論があると言うのなら…」
ズズ―… とギルガメッシュの横の空間が歪む。王の財宝か!と綺礼が気付いたときには、それはもの凄い勢いで真っ直ぐ彼に向かって飛んでいた。
「これでも喰らうがよい!」
それは小さな杯だった。黄金に輝く、得体の知れない液体が入った杯。普通の人間ではそれを顔に喰らってしまうだろうが、生憎綺礼は代行者だった。様々な修行を受けてきた彼にとって、飛んできた杯を受け止めその中身をギルガメッシュの口に向けて返すことなど至極簡単なことだった。
「ッぅぐ!?」
よもや自分に杯を返されると予想もしていなかったギルガメッシュはそれを飲んでしまった。カシャンと杯が床に落ちる音と、気管に入ってしまったのだろうギルガメッシュが噎せる音が部屋に反響する。