「ふむ、質素ながらなかなかしっかりとした造りだな」

教会まで付いてきた半獣に綺礼は顔をしかめる。本当に人間に対する警戒心は薄いようだ。罠にかかった彼を助けただけでこうもなつかれると、綺礼の悪い癖が出てきそうだった。

「もしかしなくても家に居座る気ではないだろうな」
「まさか!我の友人が見つかるまで世話になるだけよ」

礼拝室を抜けて、その隣の司祭室へ入る。そこには簡易ベッドがあり、ギルガメッシュはベッドに飛び込むと硬い質感に不満を抱くが、眠気には勝てないらしく次第に寝息が聞こえてきた。教会は彼の足からの出血で汚れるわベッドは占領されるわ、やはり今日はついてないな、と綺礼は思った。

「おい」

声をかけ、うつ伏せに寝ていたギルガメッシュを仰向けにする。ピクピクと白い兎耳が動くがギルガメッシュに目覚める気配はなかった。数分前に出会っただけで完全に警戒を解いた整った顔立ちの半獣に、綺礼はテーブルに置いてあったナイフをその手に突き刺した。

「っつ!!」

ズキンと掌に走った激痛にギルガメッシュは半ば強制的に意識を覚醒させられる。目の前には先ほど出会った男がいて、しかし何故男がギルガメッシュに攻撃したのか、皆目見当もつかなかった。

「つ、ぅう…?」

予想通りに目を見開いて茫然自失している半獣に、綺礼は込み上げる笑いを堪えるのに必死だった。茫然としている彼の、その様が可笑しくて堪らない。

「なぜ自分が攻撃されているのか、わからないといった顔だな」

ベッドに縫い付けられた掌には杭のようにナイフが刺さっていて動かない。そうこうしていると、もう片方の掌にもナイフが穿たれギルガメッシュは短く悲鳴をあげた。

「半獣はもともと人間に虐げられる生き物なのだ。わかるか?本来は人間に脅え、隠れて暮らすのが半獣だ。お前はそれを可笑しいとばかりに図々しいほど堂々と生活して、そのくせ阿呆みたいに警戒心がない」

そう語る綺礼の、酷く冷めた目。その目に渦巻く狂気にギルガメッシュはようやっと気付いた。じわじわと血が広がるベッドは今度買い直そうと頭の中で算段をつけながら綺礼はテーブルの上の鋏を掴む。

「今お前が生きるも死ぬも、私の選択次第だ」

そうして握った鋏を、ギルガメッシュへと振り下ろした。




言峰綺礼の感性は人とは違う

人が美しいと舌を巻くものに、美しいと思えない。美しいとわかるのだが、心が伴わないのだ。反対に綺礼は美しいものが壊れる瞬間にこそ心を打たれた。結晶が割れるように、線香花火が消える前に一際輝くように、その一瞬こそが美しいと思うのだ。





「っあ、あう、…んっ!あああぁ…」

ドクン、とお腹に何回目かの精が注がれる。泣きつかれたギルガメッシュの顔の横には鋏が突き刺さっており、ピンと立っていた兎耳も今はへたんと垂れていた。

「やら、もうやらぁ―…」

泣き喚いていた声もすっかり掠れていて、呂律も回らない。何度も中に出されたお腹は妊婦のように膨れている。無理矢理穿たれた後孔は真っ赤に染まっており、溢れる精液と混じってピンク色になっていた。傷ついた両手も足も放置されて血は黒く変色し始めている。

その状況を作り上げたのは綺礼だった。




『生きたいか』

顔面すれすれに刺さった鋏を見て、ギルガメッシュはとうとうしゃくりあげた。ぼろぼろと涙は溢れて止まらない。死にたくない、と漸く絞り出した声は小さく震えていて、それでも綺礼の耳に届いたのだろう、ニヒルな笑みを浮かべた綺礼はギルガメッシュの頬を安心させるように撫でたあと、思いきりぶん殴った。美しい夜のことである。


―――――――
道徳ってなに。


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