*ギルガメッシュが半獣の兎
*いろいろ酷い
キラキラと夜空に星が瞬き、月が夜道を仄かに照らす。丘の上に建てられた教会の神父の言峰綺礼は、白い息を吐きながら帰路についていた。
(今日は随分と遅くなったしまった)
綺礼には師がいて、今日はその師の娘の相手をしてほしいと頼まれていたのだ。あそこに行きたい、勉強を見てほしい、と頼まれまくった結果、遅くに帰宅する羽目になった。夜空はキラキラと光っていて、何とはなしに美しいと思った。
「……れか…」
暗い丘に微かに響いた声に、綺礼は思わず振り返る。声のする方角は綺礼がいつも動物用に罠を仕掛けている場所だった。
(もしかして人間が引っ掛かったのか?)
ザクザクと草を踏み均して急いで駆け寄る。声はどんどん近くなる。
「誰だ!?」
林を抜けて駆けつけると金髪の青年が警戒したように声を荒らげた。否、人ではない。その頭には白い兎の耳があり、足には罠がかかっていて血を流れていた。
「半獣…か?」
半獣とは、ここ最近多く見かけるようになった、人の容姿をしているが動物の部分も掛け合わせているという、文字通り半分獣の生き物だった。その奇異な見た目からは裕福な者の暇潰しにされたり、多くは迫害され世間から冷たい雨を浴びている。
「あぁ、おちつけ。今罠を外してやる」
ガチャガチャと罠をいじり解放してやる。兎や狐が引っかかっていたら今夜の食事は肉料理になったかもしれないと思いながら綺礼は眉根をひそめた。今日はうまく事が運ばない。
「うむ」
ギュウと止血に布を足に巻いてやると、半獣は足を軽く揉みながら短く綺礼に礼を言った。
「すまぬな。昼頃からこの罠に嵌まってしまったのだが、なかなかどうして抜け出せなんだ。助かったぞ雑種」
半獣はどうやら人懐っこいらしい。過去に温厚な人と居たのだろう、人間に対する警戒心は薄いようだ。態度はでかいが。
「いや、別に気にすることはない。それよりどうしてこんな場所に」
「そうだ、我は人を探しているのだ。髪は長くて―…」
落ちていた木の枝を使い半獣はガリガリと地面に人相を描く。しかし哀しいかな、暗くてその絵は見えなかった。
「其奴は我の友人でな、ある日いきなり眠ったと思うたらなかなか目覚めなんだ。そうしているうちに他の雑種が奴を四角い箱に入れて連れ去ったのだ」
それはもしかしたら亡くなられたのではと綺礼は思ったが、それよりも半獣の知識の狭さに驚いた。よほど大事にされたのだろう、罠も外せないほどの箱入り息子並みである。
その無垢な真っ赤な瞳を見ていると、綺礼の口角は自然と上がっていた。胸部の奥辺りがむずむずとざわつき落ち着かない。ごくんと唾を飲みその感覚を誤魔化していると、青年は痛む足を引き摺りながら綺礼の側に寄った。
「我の名はギルガメッシュだ。敬意を持って呼ぶが良い」
「私は言峰綺礼だ」
相手の紹介に思わず綺礼は反射的に言葉を返してしまった。
「ふむ、きれいか。きれい、綺礼…。よし、気に入ったぞ!」
そうして笑ったギルガメッシュの髪は月の光に反射してキラキラと輝いて、綺礼には眩しすぎた。