▼Smell

「勇者さん、」

「おわっ、ちょ…!」

昔馴染みのレストランで食事を済ませた後、宿でルキと別れてロスとツインの部屋に入った。

ルキと一緒に旅をするようになってロスと二人きりになる時間は減った。

三人から二人になった途端、変わる空気。

気まずいわけではないがどことなく緊張してしまう。

何を話そう。何かおもしろい話題はないか。最近起きた出来事…。

ベッドに腰かけ猫背気味でうんうん唸るアルバに近寄るロス。

「勇者さん、」

耳元で呼ばれる役名。







「な、なに…?
 どうしたの戦士」

普段の罵る態度とは打って変わり腹部に腕をまわして後ろから抱擁される。

ロスはアルバの肩口に顔を埋めていた。

静かに聞こえる呼吸の音。

「…勇者さんて
 いいにおいですよね」

「なっ?!!!」

こいつ人のにおい嗅いでたのかよ!

急に恥ずかしさが増してジタバタ藻掻くもぎっちりと腹部を固定されて逃げられない。

「石鹸と、洗剤のにおい
 と、勇者さんの汗の…」

「わあああっ!!
 嗅ぐなああっ!!!!」

それでもすぅ、と息を吸うロスにぞくりと寒気がして目に涙が溜まる。

「おま、戦士!やめて!
 やだって……
 うわっ!?」

あんまり煩かったのか横倒しにされ視界が大きく変わる。

相変わらずロスの顔は見えない。

「…うるさいですよ
 このクズ勇者」

「そこまで言う?!!」

「静かにしてれば
 可愛いのに」

「はいはい静かにすれば、
 …え?」

「アルバ」

「っ…?!」

最初出会った時、馴れ馴れしいから名前で呼ぶなと喝を入れられた。

そのロスが、いつも鞭ばかりのロスが。

「ふ、ふぇ…!」

薄いシャツを捲られ自由気ままに弄られる。

その手つきに身震いする。

「…細いし弱ぇし、
 ベトベトするし」

「え、それ汗の話?
 スライムの話…?」

「ツッコミうるせぇし」

「僕の話かよ!!」

恥ずかしさで顔から火がでる。あのことわざってこういう時に使うのかな。

ぼやりとそんなこと考えても顔に集まった熱が治まらない。

「鈍いしめんどくさいし、
 アルバだし」

「アルバだしってなに…」

「可愛いからむかつく」

「ぅ……」

可愛い。そう言われると嬉しいような、違うよな、変な感情に左右される。

おとなしく抱かれたままじっとしていると間を置いて正しいリズムの呼吸音が聞こえた。

「せ、戦士…?」

呼びかけても反応がない。

「うそでしょ…」

しん、となった部屋に虚しくアルバは呟いた。

「せめて
 お風呂行かせて…」

>A sweet smell.
(あまーいにおいですね)
 End


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