ぬくぬくと自分の体温で温まった布団はとても心地良く、起きなくてはと思ってはいても、重い瞼はなかなか開いてくれない…
今日は休日…いくら遅くに起きても、焦って身支度をして、急いで学校に向かう必要も無い。
(もう少し…)
そんな事を考えながら寝返りを打つと、まただんだんと意識が微睡みの渦へと沈んでいくような感覚を覚えた。
「まだ寝ているのかい?」
意識を手放しそうになった瞬間、聞こえてきた私の好きな優しい声…
でも私は一人暮らしだし、たぶんこれから見る夢に出てくるんだ。
『んー…』
「随分寝坊助だね、僕のお姫様は」
『う、ん…?』
夢というよりも耳に直に聞こえてくる声に、まただんだんと現実に引き戻されていく私の意識…
顔にかかった髪を指先で払う感覚がして、重かったはずの瞼が自然と開いた。
『カヲル、くん…』
「おはよう、名前」
『おはよう…ございます、』
ベッドの脇に膝を付くカヲルくんは、私の顔を覗き込みながら微笑んだ。
『なんで?』
「なんでって…今日は天気がいいから出掛けようって、僕を誘ったのは名前の方だよ?」
『え…いつ?』
「昨日」
「忘れたのかい?」と少し面白くなさそうな顔をするカヲルくん。
カヲルくんとの約束を思いだそうと、昨日の朝からの出来事を順を追って思い返してみるが、なかなかそれらしい記憶が思い出されない。
「確かに、眠そうな声をしていたけど…まさか自分で言った事も忘れてるとはね…」
『眠そうな声?…あ、』
そう言いながらカヲルくんが指差す先を辿って見てみれば、そこには枕元に置かれた携帯…
それを見て、寝る前にカヲルくんと電話していたのを思い出した。
『電話で…』
「思い出した?」
『うん…少しだけ』
電話をしていて、だんだん眠くなってきたのは覚えている。
それからの記憶は断片的で、最後にカヲルくんの「おやすみ」と言う優しい声の記憶を最後に途切れていた。
恐らく、その半分眠り掛けていた時に約束をしてしまったのだろう。
『…ごめんね?』
「ん?何がだい?」
『私が約束したのに忘れてて…私の事、待ってたんじゃない?』
「名前に待たされるのはもう慣れたよ」
『…ごめんなさい』
少し呆れたようにそう言うカヲルくんに申し訳なく感じて謝ると、カヲルくんは「冗談だよ」と笑って見せた。
「ところで名前…」
『ん?』
「いつまでそうしているんだい?」
ベッドに頬杖をつくカヲルくんにそう言われる私は、未だベッドの中で布団を被っている。
『だって、まだパジャマだし…髪もボサボサだし…』
「気にする事ないよ」
『うぅ…それに、寒いし…』
「それじゃあ名前は、僕の事は寒い部屋にただ座らせておいて、自分だけ暖かいベッドでぬくぬくしてるんだね…」
『暖房つければいいじゃ…』
「ハァ…」
悲しそうに溜め息を吐くカヲルくん…
パジャマ姿なんてだらしない気がして、起き上がるタイミングを逃してしまったが、せっかくカヲルくんが家まで来てくれたのだし…と、やっと体を起こす事にした。
『うぅ〜…もうわかったよ…』
起きあがろうともぞもぞ動くと、バサリと布団が剥がされた。
咄嗟の出来事と体に触れた冷たい空気に、に思わず『ひゃっ!?』なんて間抜けな声を出して、ベッドの上にうずくまってしまった。
「よいしょっと…」
『…へ?』
「うん、暖かいねぇ…」
ベッドがギシッと音を立てて軋んだと思ったら、隣にカヲルくんが入ってきて、布団を被った。
『え、あの…なんで?』
「寒かったから」
『寝るの?』
「どうだろうね」
『じゃあ私、降り…きゃあっ!?』
起きあがろうとして、カヲルくんを越えようと手をのばすと、不意に首に腕がのびてきて引き寄せられた。
咄嗟の事に対応できなくて、引かれるがままにカヲルくんの胸に顔面から突っ伏してしまい、鼻をぶつけた。
『痛い…』
「ごめんごめん」
カヲルくんの胸から直に聞こえるその声は耳に心地よく、ふわりとカヲルくんの香りが鼻を掠めた。
「いい匂いだ…」
『…えっ?私?』
「うん。名前のいい香りに包まれながら、名前を抱いて眠る…至高の癒やしだね」
『え、ちょっ…や、やだっ!離してっ!』
そう言いながら私を抱き締めるカヲルくんから逃れようと暴れてみるが、その細い腕のどこにそんな力があるのか、いくら私が暴れてもビクともしない…
「予定変更」
『予定?』
「今日はずっと、こうしていようか」
私をぎゅっと抱き締めてゴロンと横向きになったカヲルくん。
包み込まれる様な体勢は、カヲルくんの体温がよく伝わってくる。
その体温に安らぎを覚え掛けた瞬間、その体温の持ち主の手が、私のお尻のラインを撫で、腰を寄せ付けてきた。
『ね、ねぇ…カヲルくん、』
「ん?」
『変な事…しないよ?』
「おや…」
一瞬、目を丸くさせたカヲルくんは、フフッと色っぽく微笑みながら、「じゃあ…」と続けた…
「一緒に寝ようか」
眠り姫
「ああ、そういえば…」
『ん〜…?』
「今日会う約束の話、嘘だよ」
『……え?』
君に触れたくなったから、それだけ。
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しょーもない終わり方。
自分で100踏んでしまった記念に←
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