short | ナノ
もう手遅れだ



性転換ネタ注意




「っんだこりゃあああああ!!」



煩い煩い昨日、寝たの何時だと思ってんだよ、アヤトの野郎。マジ煩い。夕方早々から聞こえてきた悲鳴にもぞもぞと布団へと潜り込んだ。眠い眠い。そんな私の部屋の扉が蹴破られる音がした。ははっ……マジ有り得ない。スバル辺りかと思ったが、それにしても聞こえてくる声が高い。何だ何だ誰かが怪力女でも連れ込んだのか?その怪力女が何で私の部屋の扉を壊すのかな。連れ込んだの誰だよ本当に面倒かけてくるなよ。更に布団へと潜り込めば、腹部への強烈な痛み。怪力女がどうやら上に乗ってきたらしい。誰かと間違えてるのかこれ。寝るのを諦めて文句を言おうと布団から顔を出すと酷く困惑した表情をした美少女。……ん?スバルって妹いたっけ?取り敢えず退きましょうよ、お嬢さん。



「おいっ、どういう事だ!!」
「可愛い顔なんだから、その言葉使いは良くないよ?」
「ざけんな!」
「おふっ!!」
「何でテメェは無事なんだよ!!」



殴られた。美少女に思い切り殴られた。しかも無事って何さ。頬を擦りながら彼女を見ていると本当にスバルにそっくだった。そう言えば、アヤトも何か悲鳴をあげてたな。……おいおい嘘だろ。よくよく考えたらアヤトの声も少し高かったし…。うわー面倒くさい。あ、でもこれって私が襲われなくて済むじゃん。おーおー何って素晴らしい事なんでしょうね。



「取り敢えず今日は祝杯だ」
「祝杯?舐めたこと言ってんじゃねえよ。元に戻る方法を考えろ」
「どうせレイジのせいでしょ?一先ず集まろうよ。着替えるから外に出る」
「はっ?」
「いや、あんた性別男でしょ。今は女の子になってるけどさ。ほら、出た出た」



女子にしては身長が大きい私はスバルの首根っこを掴んで外へと出した。蹴破られた扉を申し訳程度に立て直し、手早く身支度を整えてしまう。それから不機嫌そうな彼?いや、彼女?を連れてリビングへと降りると地獄絵図が広がっていた。ソファーはボロボロ、調度品は滅茶苦茶に荒らされている。きっと何処ぞのご令嬢に見えるレイジによって説教を受けている三つ子の仕業だろう。あのライトまで暴れまわるとは余程堪らなく嫌だったのだろう、女になったことが。それを考えるとスバルはまだ良い方か。と言うかライトなら喜びそうじゃない?もしかして、とばっちりで説教かあれ。そう思いつつ、ボロボロのソファーに横になってる色素の薄い美少女へと視線を向けた。シュウは今の状況を理解してるのかと疑うほど通常運転。あれ、そう言えばユイは何処に行った?



「ユイ?ユイちゃーん、何処に行ったのかなー?」
「……唯ちゃんっ」
「おお、ユイちゃ…………むっちゃ美少年」
「え、えっ?」
「慌ててる可愛いな、もうっ」



物陰に隠れるように座っていたユイを抱き締めれば、顔を真っ赤にさせる。可愛いよ可愛い。逆巻兄弟…今は姉妹だけど、それよりも可愛いよ。ぎゅーっと抱き締めると金魚のように口をパクパクさせながら私を引き剥がす。ありっ力まで強くなってるなんて誤算だった。名残惜しかったが、拒否されてしまったなら仕方がない。それにしても、どうしたら良いものなのか。この様子だとレイジの仕業ではないのだろう。何せ奴は愉快犯。自分まで性転換するようなミスはしないはずだ。そうなると他の誰かと言う結論に至るのだが…。はて、誰の仕業だろうか。



「ねえ、スバル。昨日なんか特別なことあったけ?」
「…いや。せいぜいお前が珍しく菓子でも作ったくらいじゃねえのか?」
「ああ、そういや作ったよねー。私の口には一口も入らなかったけど」
「知りませんよ。君が勝手に転んで気絶したんでしょう…本当に無様な姿でしたよ」
「つーか階段から落ちて無傷とかお前マジで人間かよ」
「人外に言われたくねーよ」
「…しかし、本当に原因は何でしょうね。共通するのは貴女が作ったケーキを食べたことぐらいでしょう」
「あれ?原因って私が前提なの?そもそも勝手に食べておいてそれ?」
「そう言えば何か入れてたよねー」
「…ぶっ殺す」
「ちょ、ライト!?私、記憶に全くないんだけど!スバルも落ち着いて!」



いや、真面目に記憶にないわ。階段から落ちて少し飛んじゃったかな?昨日の記憶を遡るためにキッチンへと向かう。そこに置かれたバニラエッセンスの瓶や洋酒の横に置かれている見知らぬ瓶。一見すると洋酒の一つに見えるが、こんなものを買った記憶はない。……………………おうっ、そういう事か。手にしていた小瓶を元の場所へと戻し、昨日の記憶が完全に戻った私はダッシュでその場を逃げ出した。いや、これ絶対私は悪くない。そうだ!悪いのは無神だ!特にコウ!屋敷から飛び出し、教えてもらった無神家へと自転車を走らせる。これ今帰ったら私、殺される…!いや、マジで本気で!あの時のスバルの目がヤバかったもん!自転車を乗り捨て、思い切り無神家の玄関を叩いた。



「…騒々しいぞ。何の用だ」
「知ってたんでしょ!?ルキ!コウが昨日、渡してきた高い菓子作り用の洋酒が何だったのか!」
「ああ…本当にいれたのか」
「なに冷静な顔してんの!?こっちはもう命の危機だよ!彼奴ら皆が食べちゃったんだから」
「ふっ、あははっ!なにそれ傑作!」
「っ、コウ!!」
「そう怒鳴らないでよー。ちょっとした悪ふざけだったんだからさあ」



出やがったなこのアイドル野郎。私がルキに掴み掛かっていると、爆笑しながらコウが現れた。どうやら話が聞こえていたらしい。悪びれた様子もなく笑いながら、ごめんねーと暢気な声を発している。その姿に果てしなく殺意を覚えてしまったのは仕方がないことだろう。ホントどうしてくれよう、このアイドル。下手にやると返り討ちに遭うから嫌なんだけどやり返したいわ本当に。



「可笑しいと思ったんだよね…あんたが何もなく渡してくるから!」
「でも、使っちゃったんでしょー?俺、唯のそう言うとこ好きだよ?」
「嬉しくも何ともないわ!どうしたら元に戻せるの!?私、殺される帰れないじゃん!」
「うっせーぞ唯!!」
「お前が煩いわユーマ!!」
「…二人とも煩いぞ。解毒薬はない。薬の効果が抜けるまで三日はかかるが元には戻る」
「み、三日…?……ダメだ、終わった。本気で殺られる…」
「どんまーい」
「誰のせいだと……!」
「じゃあ……此処に、いれば…?」
「え?」



奥から出てきたユーマに怒鳴られ、つい怒鳴り返したところルキに頬をつねられた。そのまま話を聞いて絶望する私の手を引きながらアズサが投下した核爆弾。いや、それの方がマズイ。本気で朝日が拝めなくなる。いっそうこのまま教会に逃げるか?……引きずり戻されるのが目に見えてるね。そんな私の思考を余所にアズサの言葉に同意を示す面々。騙されるもんか。エサにはならんぞ。さあ、決意は固まった。このまま此処にもいないで帰りもせずに教会に行こう。ははっ、それが良い。一番安全でマシな場所だ。くるりと方向転換をし、帰ることを告げると何故か掴まれた腕。そのまま中へと引きずり込まれ、無意識に頬が引き攣った。アズサに至っては既に私の指をガジガジと噛んでいる。骨が多いから痛いのよ指って!離そうとしたら更に牙が食い込むのが分かったので無駄な抵抗は止めた。だって痛い。



「え、えー…落ち着こうよ?怒鳴って悪かったから。もう家に大人しく帰るから、ほんとごめんね?つか、アズサ本気で痛い殴るよ」
「んぅ……殴って、いいよ……?」
「帰れないでしょ?なら、此処にいれば良いじゃん。そしたら俺も好きな時に食べれるしー?」
「良いんじゃねえの?おら、俺にも飲ませろ」
「嫌だ!痛いの反対!見てないで助けてよルキ!!」
「そもそも此処に来た時点で覚悟はしていたことだろう?コウに文句を言いに来た後は無事に帰れるとでも思っていたのか?」
「だってユイじゃん。あんた達が狙ってるの。…と言うか、これが狙いだったとか言うんじゃないよね?本気で殴っても良いかな?良いよね!?」



鼻で笑うルキの反応から言って、私をエサにするのが狙いだったらしい。なるほどだから止めなかったのかコンチクショー。ガブリッとユーマに噛み付かれ、もうこれは人生終了のお知らせだと思った。いや、本気で。加えて私の頬を撫でながらルキが言うのだ。「もう手遅れだ」と。

←|→


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -