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恋人みたいな



付き合っているとかいないとか。そんな噂が流れるようになったのは何時からだろうか。ふむ、まったく持って不思議な話である。何せ――。



「双子なのにね」
「おん」
「雅が、ちゃんと女子に言わないから」
「俺のせいじゃなか。唯も悪い」
「いやいや、君が今現在、膝枕を要求したりするから」
「だったら断ればええじゃろ」
「えー、拗ねるくせに」



両親が離婚して。双子なのに外見が似ていないせいで極めつけに名字が違えば誰も双子だとすら気付かない。テニス部の人達だって最近まで知らなかったことだ。それだから家で過ごすように二人でくっついていれば、付き合っているとか勘違いされるのである。当たり前の距離を変えるのが面倒くさくて。何より違和感の方が勝った。まあ、似てないとは言っても片割れの容姿が整っているおかげで自分もそこそこの顔をしている。なので、釣り合わないと言った言葉での嫌がらせは皆無。



「雅ー、遊園地に行きたーい」
「俺は家でごろごろしとう」
「だから、そんな生白いんだよー。外出ろ外」
「嫌じゃ」
「あー、そう。じゃあ、やぎゅーと行くから良い」
「…何で其処でやぎゅーが出てくるんじゃ」
「やぎゅーは紳士で優しいから。ブンちゃんと行くと食べ物だけで終わりそうだし幸村は怖い。参謀はデータばかりで遊んでくれなさそう」
「……行く」
「ん、だったら次の休みは予定いれないでね」
「おん。じゃけぇ唯も他と予定はいれんといて」



腰に腕を回して、ぎゅうぎゅうくっついてくる雅の頭を撫でながら、こういうのが勘違いの元になるんだろうなぁと思う。屋上で四時間目の終了を告げるチャイムが鳴り響くの聞いてから、暫くすると何時ものメンバーが集まってきた。雅に膝枕をしていたせいか、真田に「たるんどる!」と怒鳴られた。えー、なにそれ理不尽。お昼なので雅が膝の上から頭を退かして大人しく横に並んだ。鞄から弁当箱を取り出して渡す。



「…野菜、入っとる」
「偏食を直せとのお達しだよ」
「うー、唯が食べさせてくれんなら頑張るけぇ、な?」
「はいはい。ほら、あーん」



嫌だ嫌だと駄々をこねる雅に弁当の中の野菜を食べさせていれば、ブンちゃんからの睨むようなジト目が向けられた。いや、それにしても凄い量を食べるね。それでお菓子が入るんだから凄いや。真田からまた怒鳴られたけど気にせずにいれば、ついにブンちゃんがキレた。



「…お前ら人の目の前でいちゃつくんじゃねぇよぃ!!」
「そう、起こりなさんなブンちゃん」
「彼女と別れたからってあたらないでよ」
「大体お前らほんとに双子かよ!付き合いたてのカップルみてぇにベタベタしやがって!!」
「あ、それ俺も思ったんすよ!いっつも一緒にいるし全然似てないし嘘吐いてんじゃないかって」
「そうですか?お二人と話してますと随分と似ておられると思いますが。例えば…お姉さんの言うことは?」
「「ぜったーい。逆らったら首がスパーン」」
「こんな風に言葉も動きもシンクロするんですよ」
「ふふっ、首の前で手を一文字に動かす動きも全く一緒だったね」
「ふむ、男女の双子は前世で心中をした恋人同士だとよく言うからな」
「心中?それは嫌だね」
「嫌じゃ」



へぇ、そんな言い伝え的なものもあるのか。野菜を全て食べさせてから漸くと自分の弁当を食べ始めた。ふむふむ、なかなかの出来だね。一応は母子家庭なので弁当は自分で作っている。これも慣れたから、そんなに苦ではない。唐揚げが欲しいと言う雅にそれを上げたところで赤也から疑問の声が上がった。



「そういや俺、先輩達が一緒に住んでるって聞いたんすけど。離婚してるんすよね?」
「形式的にはのう。やりたい事があるから別れただけでラブラブじゃ」
「お陰で二人が家にいる時は散々だよ。だから別々に住んでないわけ」
「それ…離婚した意味はあるのか?」
「ないよ。それより問題はお姉ちゃん」
「こないだは散々じゃった。彼氏と別れたとかで荒れとってのぅ…俺らを見て爆発したんよ」
「そうそう。それで部屋掃除させられてさ。そしたら雅がお姉ちゃんの下着を躊躇いもなく片付けるのを見て、そんなに私には魅力がないかと大爆発」
「じゃけん、次に風呂掃除を命ぜられてやっとたら唯のせいでびしょ濡れじゃ。お陰で買い物にまで行かせられたナリ」
「それ私のせいじゃないよ。先に水かけてきたのは雅だし。そもそもお姉ちゃん怒らせたのは殆ど雅じゃん」
「……それ二人でやる意味ってあるの?」
「突っ込んだらお仕舞いだ精市」



どうやら普通の双子でもやらないらしい。そうは言われても何時も一緒だから仕方がないのだ。そんなに可笑しいとは思わないけど。弁当箱を片付け、残りの昼休みは雑談タイム。相変わらず二人でくっついていれば彼女と別れたばかりのブンちゃんの機嫌が急降下していく。お姉ちゃんもこんな感じだった。



「第一、お姉さんの前でくっついてたから悪いんじゃないの。別れたばかりの人の前じゃ目に毒だよ」
「毒以外の何物でもねぇよ。今すぐ離れろ」
「…そんなくっついてないよ?普通だよ」
「お二人からしたらそうでしょうが、私達から見るとそう見えるものですよ」
「よう分からん」
「やっぱ先輩達は双子じゃないっすよ。可笑しい可笑しい。こんな恋人みたいな双子がいるわけない」
「むぅ…やぎゅーにしか見せたことがないアルバム見せてあげる。あんまり煩いから持ってきてたし」



鞄からアルバムを取り出してページを開くと皆が集まってきた。産まれたばかりの写真やら見せれば、漸く納得したように黙った。やっぱり似てないとは言う言葉と共に昼休みの終わりを告げるチャイムが聞こえてきた。後日、この時の写真が落ちていたらしく雅と私が許嫁なんて言う、とんでもない噂が流れていた。女子の発想って怖い。


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