short | ナノ
しようとしても出来ない



恋愛ってしようとして出来るものではない。

鷺ノ宮唯、大学二年生。顔は普通より少し上程度、まあ平凡と言えば平凡な顔をしている。つまるところ十人並みなわけで。冒頭の言葉に戻るが、恋愛なんてしようと思って出来るわけではなくて。今まで好きな人こそ出来たものの、ああ好きだなって思って終了。何時の間にか感情が自然消滅してしまって彼氏なんぞ出来たことがない。それに周りが焦ったらしい。何が何だか分からないまま引きずられてきた個室スペースが設けられた居酒屋。今日もまた説教か何かかと出された水を一口飲み込んだ。



「…どう思う?」
「服は問題なし。メイクは…まあ妥協点」
「髪は少し弄った方が良いかな。緩く巻いてからサイドの髪を…」
「いや、ちょっと待て。え、何?何の話?人の外見を貶してから何しようって言うのさ」
「ちょ、黙ってなさいよ唯。こんど喋ったらアンタの嫌いなグリンピースを口に詰めるわよ」



何て地味で嫌に精神的にくる嫌がらせなんだ。そうは思っても大嫌いなグリンピースを口の中に詰められるのは、ごめんなので大人しく縮こまっていれば、友人二人が何やらポーチを取り出しながらにじり寄ってきた。うわっ、ものっそ顔が笑顔なんだけど!嫌な予感から、わたわたと距離を取ろうとしたがそれよりも早く頭を掴まれた。握力40以上の友人Aに、そんな事をされたら堪ったものではない。けど、逆らったら握りつぶされそうなので涙目で友人Bが携帯用のヘアアイロンのプラグをコンセントにさすのを見つめていた。いや、それ犯罪。



「ま、まさか私のことを焼く気…!?」
「はい、馬鹿は黙ろーねー」
「寧ろ崇めろ奉れ」



それから三十分。髪やら何やらを結局、弄られまくられたのだが何がしたいのか。一仕事を終えたような二人は揃って時間を確認した。「もうそろそろか…」そう呟きながら後片付けを始め、それが終わった頃に何故か三人の大学生らしき男の子達がやって来た。…ん?これは、まさか…!!バッ、と慌てて横を見ると素知らぬ顔で三人に声をかけるA。合コンなんて聞いてない!しかもAには彼氏がいたはずだ。



「何こっち見てるの。前を見なさい前を」
「いや、待っててば。え?聞いてないんですけど」
「諦めろー。男っ気のないアンタが憐れで憐れで…唯、私たちの努力を無駄にしないでね」
「無駄にって…」
「え?何か文句ある?」
「いえ、ございません」



小声での会話を終了させ、諦めて大人しく前を向く。適当に頼んだ烏龍茶を受け取ったところで漸く相手を目にした。…うん、落ち着こうか。何でこの人がいるんだろ。うわっすっごい気まずいんだけど。中学の頃の同級生である幸村を見付け、気まずさに視線を落とした。ちなみに外部へ進学したから中学の頃の同級生なわけで。たぶん相手は覚えていないことだろう。何せ話したことすらない。勝手にこっちが片想いをしていただけだ。しかも、さっきのああ好きだなって程度の。でも、こんな所に来るイメージなんてあまりなかった。だって、あの神の子って有名だったテニス部部長様。それはそれは女子にモテたというのに。うーん、意外すぎる。今でも連絡を取ってるジャッカルでさえ彼女がいると言うのに。



「唯ちゃん、何か飲む?」
「あ…じゃあカシスオレンジ飲もうかな」
「あ、私も飲むからお願いね。 なに上の空で酒だけ飲んでるのよ。シバくわよ」



前半は可愛らしく言ったBだが、後半の自分へと向けられた言葉は酷く恐ろしいものだった。えっそんな彼氏とか作らないとダメですかね。今時の女の子は肉食系と言うからBはガチで彼氏を作りに来ているようだ。そうは言ってもしようと思って恋愛を出来たら未だに御一人様なわけがない。プレッシャーに胃がキリキリしだしたので「お手洗い」と言って、その場から離脱した。ああ、もう無理だ。AとBが怖い怖すぎる。しかも、ちょっとペースが早かったかも。自分が飲んだお酒の量を計算しながら出れば誰かが壁に寄り掛かっていた。



「鷺ノ宮、俺のこと覚えてるよね?」
「え、いや…」
「覚えてるよね?人の顔を見て気まずそうに目を逸らしたんだから」
「お、覚えてます…。幸村、私のことを知ってたの?」
「まあね。美術室に飾られてる絵をよく見てたし」



何か友人ABと似たような雰囲気を感じたのは気のせいだと思いたい。笑顔が怖いなんてそんな。と言うか、あの絵を見てたの?えっちょっと待とうよ。え?マジですか?凄い恥ずかしい穴があったら一生其処から出たくないんだけど。



「それで、こんな所でどうしたの?」
「二人で抜けない?俺、人数合わせで来ただけだし。お前もだろ?」
「知らされてすらいなかったんだけど。そもそも彼女がいる身分で来て良いの?」
「はっ?俺がいつ彼女いるって言った?」
「え、いや、イメージ?人数合わせならいるかなって思って」
「ほんと馬鹿。単細胞すぎるんじゃない?取り敢えず帰るよ。別に何も言わないで帰っても問題ないだろうし」



鞄を持っていたことが災いしたのか。そのまま人の手を取って店から出ていく。んん?それにしても幸村は、こんな性格だっただろうか。遠くで見てたからよく分からないが、過去の噂から判断するに優しくて辛辣なことを言わなかった気がする。そして何故、連れ出されたし。完全にBが狙いを定めてた気がするんですけど。あとで血祭りになったりしないかな。



「あのさ。俺、好きな子がいたんだ」
「ゆ、幸村?どうしたの急に」
「その子の絵に惹かれたんだ。俺のこと好きだって噂だけど聞いて嬉しかった。高校に入ったら告白しようと思ってたのに」
「思ってたのに?と言うか何でその話を私にするのよ」



そう尋ねたところ思い切り睨まれました。あ、あのそんな私が何かしたか?美人に睨まれると怖いと言うが本当である。蛇に睨まれた蛙よろしく縮こまっていると呆れたような溜め息が吐き出された。暫し無言で手を引かれるまま夜の街を歩いていれば、再び幸村が口を開いた。



「しようと思ってたのに知らないうちに外部進学。おかげで告白出来ないまま、彼女も作らずに今日までずるずると引き摺ってるわけ」
「そんなに好きだったら連絡先でも聞いとけば良かったんじゃないの?」
「遠目から見てるだけだったんだから仕方ないだろ。それで漸く再会出来たと思ったら、その子は俺から目を逸らすし」
「へぇ、気まずかったんじゃないの?」
「……鷺ノ宮ってどうしようもないほど馬鹿だよね。どうしたら、そんなに馬鹿になれるのか俺、不思議なんだけど」
「さっきから思ってたんだけど何でそんな辛辣なの幸村。私、何かした?」
「うん、した。凄くした」
「え、何した?」
「先ず目を逸らしたでしょ。人の話を聞いてても鈍感すぎるとことか。何で話の流れからして自分のことだって分かんないのかな」
「は、はい?わたしの、こと…?」
「それ以外にいる?いるんなら教えてほしいものだよ」



つまり、幸村は私を好きだったと。なのに外部進学をしたせいで告白出来なくて今日まで引き摺って。彼女も作らなかったと言うわけか。なにそれ、恥ずかしい。聞いてて恥ずかしいんだけど。しかも、それに気付かない私にイライラとするわけですね、ごめんなさい。けど、そんな話をジャッカルのやつから聞いた覚えがない。漸く意味を理解してきたせいか、カァッと顔に熱が集まっていく。



「さて、ここから本題です。ずっと好きでした。俺と付き合ってください。あ、ちなみに返事はYES以外は受け付けないから」
「拒否権すら与えてもらえないと」
「どうせ俺のこと好きだったんだろ?だから、また一から好きになってよ」
「う、うん…」
「ふふっ、今日から宜しくね唯」



ふんわり微笑んだ幸村に昔の彼が重なる。うん、やっぱりしようと思っても恋愛が出来ないわけだ。気付かなかったけど、ずっと好きだったんだ。



「幸村、私もずっと好きだったよ」
「…普通このタイミングで言う?」



耳を真っ赤にさせて口許を押さえた彼に自然と頬が緩んだ。それを見て「生意気」と頬をつねられる。ふと、そこへ加えられる力が軽くなったかと思えば、抱き締められていて額にキスを落とされた。今度はこっちが真っ赤になる番。しかも此処は往来ですよ幸村さん。でも、嬉しくて応えるように彼の背に腕を回した。







あのさ、言いにくいんだけど…
なに?やっぱ嘘とか言わないよね
いや、そうじゃなくて…ジャッカルとずっと連絡取ってたんだけど…
え…
だから彼に言えば…すぐ連絡先が分かったと…

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