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ピアス。



「あれ、ピアス開けたの?」



定位置になりつつあるソファーに座り、草薙に煎れて貰った珈琲を飲んでいれば隣に座っていた多々良くんが言った。今まで降ろしていた髪で見えていなかったらしく、物珍しげに見つめてくる。凄く飲みづらいよ、多々良くん。そんな言葉を飲み込んで、頷いた。



「昨日、開けたの」
「でも開けないって言ってなかった?」
「痛そうだから嫌だったんだけど、多々良くんのピアス見てたら開けたくなったの」
「俺の? それで開けてみた感想は?」
「あんまし痛くなかったけど後からジンジン痛かった…」



予想していたよりも痛みはなかったけど、暫くはジンジンと痛かった。髪がちょっと引っ掛かっただけで痛んだが、一日たった今日はもう何も感じない。これならばもっと早く開けとけば良かったな。そう思いながらカップを傾けたが、未だに感じる隣からの視線。目の前の草薙は少し苦笑いしてるし、何がそんなに気になるのだろうか。ちらりと視線を向ければ、むくれ顔。



「どうかした?」
「俺が開けたかったなー」
「そう言われても…友達にやってもらっちゃったし」
「女の子?」
「ううん、男の子」
「……今すぐ外そう。塞がったら俺がやり直すから」
「え、いや…何で?けっこう怖かったんだよ!?」
「それって恐怖に震えてる可愛い唯を他の誰かが見たってことだよね」
「多々良くーん?何が言いたいのかわかんないよ、そして発言が怖いんだけど」
「ん?気のせいだよ」



にっこり笑う多々良くんは何時もと同じ可愛い笑顔だけれど、どうしてだか警戒心が募る。助けを求めるような目を草薙に向けたところ、ふいっと目を逸らされた。挙げ句に「ごゆっくりー」とか何とか言って彼は出ていってしまう。いやいや、何がごゆっくりなの!?だんだんと近付いてくる多々良くんに危機感を覚え、持っていたカップをソーサの上へと置いた。万が一ソファーに溢しでもしたら別の意味で怖い。



「た、多々良くん?」
「なに?」
「近いよ、近い。本当にどうしたの?」
「…だって他の誰かに開けさせちゃうし、」
「そんなに開けたかったら八田の耳にでも…」
「違う、唯のを開けたかったの。なのに何も言ってくれなかったから。俺、ちょっと嫉妬してるかも」



嫉妬?何で多々良くんが嫉妬するの?訳がわからないと顔に出ていたのか、鈍いなぁと言う言葉とともに肩を押され、押し倒された。え…押し倒された?戸惑いからか、上手く回らない思考の中で天井と多々良くんを網膜が視認する。何時もの可愛い可愛い笑顔。でも、やっぱり違うのだ。瞳の奥の感情が。ゆらゆら揺らめくそれを見ていれば、唐突に耳に舌が這わされた。正確にはピアスにである。



「ちょ、多々良くん!?なにし、っつ…!!」



痛みがなくなったと言っても、まだ傷と大差ないピアスホールに舌を這わされれば痛む。しかもだいぶ容赦なくだ。痛いと訴えたところ離れてくれたが、その手にはファーストピアスが。確かめるように触れれば、其処につけていたはずのピアスはない。色々と混乱した頭で考えていれば、人懐こい笑顔が向けられた。



「これでやり直しだね。傷が塞がったら俺が開けるから」
「あ、うん…何かもう、訳わかんないからそれで良いです。もう片方も外すから」
「うん、良い子だね。あ、そうそう。忘れてたよ」
「忘れてたって何を」
「これ」



にこにこ上機嫌そうに耳へキスをし、上から退いていく。真っ赤になりながら耳を押さえ、起き上がると多々良くんの口許は綺麗に弧を描いていた。悪戯が成功したような子供みたいな笑みで、けれど挑発的なそれ。



「唯、知ってた?耳へのキスは誘惑の意味なんだよ? いくら鈍くても俺の言いたいこと分かるよね?」
「う…はい、」



もう誓って彼に何も言わずにピアスなんて開けるものか。普段からは想像も出来なかった出来事に放心状態でもう片方のピアスも外される。それらが何処に行ったのかは知らない。



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ピアス開けたから書いてみた
何か…甘い?


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