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リアリストの現実



「鷺ノ宮唯いる?」



その言葉にノートを取っていた手を止め、教室の入口へと目を向けた。其処にいたのは先日以来、顔を見ていない土萌。私に何の用があると言うのだろうか。とっくに昼休みを向かえていた星座科の教室へと遠慮なく入ってくると私の目の前で、ぴたりと停止。目を瞬かせていれば、憎たらしいぐらい整った顔が此方を見返す。



「まだノート取ってるの?相変わらずとろいね」
『嫌味をわざわざ言いに来たのかこの野郎』
「僕はそんなに暇じゃないよ」



だったら何をしに来たんだよ。
そんな意味を籠めた視線を向ければ「昼休み、暇でしょ」と言う問いがなされた。疑問形式ですらないそれに反論する余地もなく、頷くことしか出来ない。何でも良いから予定でも入れておけば良かった。



「お昼食べたら屋上庭園ね。じゃっ」
『え…ちょっ、土萌!』



言いたいことだけ言って、さっさと立ち去っていく土萌を呼んだけれど完璧に無視される。私の意見をも無視した彼の姿を恨めしそうに見つめ、机の上に広がっていた筆記用具をしまう。そしてお弁当を広げて手を合わせた。近くの席で漸く名前を覚えた人のお弁当が凄かったことには気が付かないふりをした。甘いものは確かに美味しいけど、あれだけは絶対に無理。


早々に食べ終え、言われた通りに屋上庭園へと向かう。別に行かなくても良いのだろうけど後が面倒くさそうだから行くことにしておく。にしても…振り回されてる気がするのは気のせいだろうか。そう考えながら屋上庭園に辿り着けば、土萌がベンチに座って待っているという不可思議な状況。絶対に待たされると思っていたから何だか拍子抜けした気分だ。



「…間抜け面」
『失礼な。それで人を呼び出した理由は?』
「君と話したかった、からじゃダメ?」
『へっ…?』



何か可笑しいよ、土萌のやつ。何か変な物食べたの?そう考えていたのが顔に出ていたのか心外そうに、むっとした表情へと変化する。それを見ながら少し離れた場所へと座り、様子を伺うことにした。



「……何で其処に座るの?普通は僕の隣でしょ」
『いや、だって土萌がこないだ言ったじゃん…男子の隣に座るなみたいなこと』
「ああ、覚えてたんだ。忘れてると思ってた」



今の今までは忘れていたけれど唐突に思い出したのは土萌が居たからだろうか。取り敢えず離れたところに居るのは不服らしいので彼の隣へと移動をする。そうすると不意に土萌が肩へと寄り掛かってきた。意味が分からずに硬直する私の手を取り、指を絡める。



『と、土萌…なにし、て…』
「何って手、繋いでる」
『…だからっ…、どうして……』
「君といると落ち着くし、唯が好きだから」



あまりにも脈絡がなさすぎる告白。完全に考えることを放棄した頭の中は真っ白で、何も考えられない。漸く衝撃が抜けてきた頭で言葉の意味を把握しようと努力する。今の好きは友達としてであって、夜久さんが本命なんだよね。うん、きっとそうだから勘違いするな私の頭。そう思い込んでも顔の熱はなかなか引いてくれない。きっと、今の私は恥ずかしいぐらい真っ赤なのだろう。



『土萌…ちょっと心臓に悪いから…手を離してくれると……』
「このぐらいで心臓に悪いなんて、これから先どうするの?と言うか僕の告白の返事は?」
『……え?本命は夜久さんじゃ…』
「月子は好きだよ。でも君の方が好き。もしかして友達としての好きだと思ってたわけ?」
『普通はそうでしょ…。だって土萌と知り合ったのは一月前で関わりなんてなかったし……』



しどろもどろで言葉を紡げば、彼は呆れたような顔をして大きな溜め息を吐き出した。絡められた指がするり、とほどかれ、微かに名残惜しさが残る。そうして正面から向き合い、綺麗な夕焼け色の瞳と視線が交わる。



「僕は唯が世界で一番好き。一生離したくないぐらい好き…ううん、愛してるよ」



再び指を絡めた手へとキスが一つ落とされる。それだけで呼吸が止まってしまいそうなほど、どきどきして真っ赤な顔は更に真っ赤になっていくのが分かる。にも関わらず「真っ赤」と呟く土萌は質が悪い。



「それで返事は?」
『……わ、かんない…。でも、嫌いでは、ない……』
「…何その曖昧な返事。納得できない」



繋いだ手に徐々に力が籠められていく。やばい、と思ったけれど既に時遅し。押し倒されるような形で下へと背中がついてしまう。



「絶対に僕なしじゃいられないぐらい惚れさせてあげるから覚悟しといて」



その言葉とともに頬へキスがされ、恥ずかしさに叫びそうになってしまう。もう、この夢に囚われて逃げられない気がした。

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