不条理を哀す | ナノ
21gの真実



逆巻の屋敷まで戻ってくると何の躊躇もなく扉を開け、中へと入った。夕方だったために全員が起きているわけであり、学校の支度を整えている。数えるほどしか学校に行った記憶はないが、さして問題とは思えなかった。何せ学籍はちゃんと黒主学園にあるのだから。いくら成績が悪く評価されようが関係がない。無論、素行が悪くてもだ。



「ビッチちゃんってば朝帰りの上に男の匂いさせてるなんて、やーらしい」
「テメェには聞きてえことが山ほどあんのに昨日はよくも逃げやがったな!」
「煩い別に関係ない」
「関係ない?父上が関わっていると言うのに貴女はそう仰られるんですか?」
「それにあの女、純血種だろ?ハンターが何で純血種なんかと取引をしてるわけ?」
「……次々と話すのはやめろ鬱陶しい。彼女については関係ない話だろ」
「関係ない以外の返答は出来ないんですか?いい加減に聞き飽きましたよ。ね、テディ?」
「じゃあ、さっさと学校に行け」



ダメだ、こいつら。質問しかしてこない。矢継ぎ早に問いだけを口にしてくる六兄弟とは、まともな会話が望めそうにもなかった。そうなると彼方の四兄弟となるわけだが、それもそれで嫌なわけだ。特に長男とか長男とか長男とか。今もなお思い出しただけで腹が立つが致し方ない。この上もなく嫌だけど。この際は妥協してやる。協会から貰ってきた銃の弾倉を数えつつ、何処で接触を図るかを思案していると六兄弟全員がソファーへと座り込んだ。それにつられたのか。戸惑いながらもユイもまたソファーへと座る。…何してんだこいつら。遅刻するけど良いのか?まあ、こいつらにしてみれば遅刻なんてどうでも良いんだろうけど。



「あ、あの…皆、学校は……?」
「こいつが話をするまで行かねえ」
「……はっ?いや、話すこと何もないから早く行けよ。お前らに構ってるほど暇じゃないし」
「そもそも君がさっさと話さないのがいけないんでしょ!?」



げっ、四男のヒステリックが始まった。何で僕が…っ!!そう言いながら泣き始めたためにどうにかしろとの声やら視線やらが向けられる。そんなこと私が知ったことではない。だが、取り敢えずポケットに入れてあった協会で貰った飴を投げておく。それ以上は本当に知らないぞ。寧ろ飴をやったことすら奇跡だからなこれ。ぐずぐずと泣く様子に呆れつつ、壁へと背を預ける。ユイは気が付いていないが、既に攻防戦は始まっていた。何時も通りに見えるが、六兄弟は私の動きに細心の注意を払っているのが伺える。万が一、此処から出ていこうものなら意地でも逃がさないつもりだろう。流石に六対一は不利すぎる。協定違反を犯すわけにもいかないので続く膠着状態。先に折れたのは此方だった。



「はぁ…面倒くさい。何が知りたいわけ?可能な限りは答えてやる。代わりにお前たちも私の問いに答えろ」
「あ?俺たちに条件付けるつもりかよ」
「ただで話すほど安い情報なんて持ってるわけないだろ。…他人に知られたくない内容ばかりの話をするんだ。当たり前だ」
「では、父上との関係を答えて貰いましょうか」
「…直接的な面識はない。だだ、何処からか私が吸血鬼であることを嗅ぎ付けてきて此処へ送り込んできた。…次は此方からだ。お前たちは何処まで私のことを聞いた」
「殆ど何も聞いてない。ハンターであることと殺すな上手く付き合え。それだけ」
「あの女の純血種は誰なのさ?」
「緋桜閑。聞かれる前に答えておく。取引内容は単純だ。死にかけた彼女に血を与える代わりに私が欲しかった情報を教えること。…お前たちの父親と接触は可能なのか?」
「無理だろ。彼奴、一方的に連絡してくるだけからな」



末っ子の言葉に舌打ちを漏らしたのは仕方がないことだ。一方的に接触してきながら此方からはコンタクトが取れないとは何事だろうか。ああ、もう最悪。ふざけんな。イライラと指先で組んだ腕を叩いていると次の問いがなされた。カールハインツが知りたがっていた例の物。その問いに全ての動きが停止する。来るとは思っていたが、本当に遠慮のない。こう言う奴等に限って自分の中に土足で踏み込まれると逆上するのだ。何とも自分勝手な奴等だ全く。しかし、答えられない問いと言うわけでもない。さて、どうしたものかな。壁に体重を完全に預け、軽く目を伏せた。



「協会内で厳重に保管されていたものだ」
「僕たちが聞きたいのはそんな答えじゃありません。君だって分かってるんでしょ?」
「……私が完全に吸血鬼として覚醒するために必要なもの」
「つまり、彼奴は君を吸血鬼として覚醒させたいわけだ。そうなると一体どうなるのかなあ?」
「やめろ気色の悪い視線を寄越すな。…興味ないな。どうせ父様関係の話だろ」
「ああ、そういやお前の父親が吸血鬼だったよな?そいつの素性は?」
「…………」
「おや、答えられませんか。では、質問を変えましょう。滅多な事では死ぬはずがない吸血鬼である貴女の父親は何故死んだのですか?」
「純血種に殺された」
「そりゃ災難だな。どうせ何かやったんだろ?」
「私が産まれる前の話だ。…だが、父様は何もしていない」
「ふーん。じゃあ、学園を襲撃したって言う純血種とは同一人物なのかな?」
「ああ」



これ以上は聞くこともないので大人しく問いに答えることにした。どうせ私の事を教えられていないならば、目的も知らないのだろう。そうなるといよいよ無神の連中と接触を図らなければならなくなる。随分とまあ面倒くさい展開になったものだ。本当に私を吸血鬼に戻してどうするつもりなのだろうか。社会の均衡を保つため?あの純血種がそんなことのために本当に動くとでも言うのか。はっ、有り得ないな。そう思いながらも渇きを訴え始めた体に機械的に血液錠剤を口へと運んでいく。…そろそろ質問もつきたか。そう思った矢先に今まで黙っていた長男が口を開いた。



「…あんたさ、家出するまで一条のところに居たんだよな?あの一翁が後見人だったわけだろ」
「…何が言いたい」
「だとすると貴族階級以上は当たり前。そのうえ名家であることは間違いないはずだ。それに純血種との関わりがあるんなら…純血種の血縁者じゃないの?」
「…………」
「無言は肯定ってとるけど?」
「お前みたいに頭が回る奴はヘドが出るほど嫌いだ。だが、その答えでは完全に正解だとは言い難いな。何せ父様は――」



言葉の続きを口にしようとしたところでリビングの窓ガラスが全て音を立てて砕け散った。それと同時に感じる気配に組んでいた腕をほどき、小さく息を吐き出した。割れた窓へと近寄れば、踏みつけた硝子の破片が足元で小さく鳴る。外へと走らせた視線を兄弟へと向け直し、薄く笑みを浮かべた。



「残念。これ以上は話すと私が叱られるらしい。まあ、これだけ話せば十分だろ。…しかし、枢も何でまた監視をつけてるのか。過保護にも程がある」
「今のあの野郎の仕業かよ!つか、テメェ彼奴の言うことは聞くのかよ!」
「勘違いするな。私と枢の関係は対等なもの。ただ逆らうと面倒くさいだけだ。…分かったならさっさと学校に行けば?私は出掛ける」
「ふざけんな!一番肝心な事には答えてねえだろうが!」



あー煩い煩い。大体、殆どの問いには答えたし長男だって勘づき始めてるだろ。だったら予想は付くだろうが。そもそも与えられた情報よりも与えた情報の方が多いんだ。文句を言われる筋合いはない。耳に手を当てながら割られた窓から外へと出た。さて、これから学園に戻るか。はたまた無神に接触するか。どちらにしようか。

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