不条理を哀す | ナノ
そんな目で見るな



優姫たちの元で少しだけ言葉を交わしてから彼女たちとは別れた。何時までもハンターに構っているわけにはいかないのだから。それから監視をしながらも駆け寄ってきた莉磨たちと合流をする。藍堂と架院それに拓麻は枢の元にいるので今は姿が見えない。まあ藍堂に絡まれると面倒くさいから別に良いのだけど。吹き抜けになったダンスホールを二階から見下ろしつつ、飲み物を取りに行く瑠佳を見送る。さて、この両サイドをどうしたものか。莉磨と支葵によって固められ、尚且つ今にも私の指をかじろうとする支葵。先程から会話が噛んで良いかダメかである。それに呆れて瑠佳も飲み物を取りに行ったのだろう。



「ねえ…噛んで良いでしょ?」
「ダメ。此処は吸血鬼ばかりだしハンターなんですけど私。血液錠剤、持ってるでしょ」
「えー味気ないじゃん…」
「支葵いい加減にしなよ。悠稀が困ってる」
「だってお腹減ったし。……じゃあ舐めるだけ」
「…間違っても噛まないでよ」
「んー」



駄々っ子支葵が引き下がる様子がないので仕方なく許可をすれば、左手の中指へと舌を這わせ始める。擽ったさには馴れていたために気にすることなく夜会を監視していく。まあ、気にするとすれば間違っても噛まないでくれることだ。しかも返事が適当だったし。おまけに前科がある。噛むなと言ったのに噛まれたのだ。と言うか指を舐めるだけでお腹が満たされる云々の前にどうなんだ、これ。美味いのか?生憎ながら血だけしか飲んだことがないので分からない。本人が満足そうだから何も言わないけど何時になったら解放してくれるんだか。莉磨に視線を向けたら直ぐに逸らされた。ああ、つまり助けてくれないのね。



「…支葵もう放して欲しいんだけど」
「あとちょっと……」
「あとちょっとね。…ところで指って美味しいの?」
「…悠稀って匂いしないけど肌とか血は甘い……お菓子みたいな感じ?」
「そうなの?」
「まあ悠稀は特別だから。それより支葵もう止めて。悠稀が穢れる」
「俺、バイ菌じゃないんだけど……」



血液錠剤を支葵へと押し付けた莉磨は持っていたハンカチで私の指を拭っていく。若干左横から不満げな声がしたが、これ以上は莉磨の機嫌を損ねかねない。完全に引っ付き虫と化した彼女が私の右腕と腕を絡めながら下にケーキを食べに行こうと言う。それに大人しく従い、支葵の手を引いた。通り過ぎた色とりどりのケーキの前には三つ子の真ん中がおり、ケーキを食べている。目が合ったがお互いに無言であった。話の種もないので当たり前と言えば当たり前だが。



「……俺、これ食べたい」
「私これ」
「…二人とも自分で食べれるでしょ。甘えるな」
「何時もは食べさせてくれるのに」
「ね…意地悪になった…」
「止めなさいその目。保護者は何処にいっ……あ、小森さん」
「悠稀さん?」
「何で一人なの?長男次男三男五男の誰かといたんじゃないの」
「逆に分かりにくいです、それ…着いた途端に置いて行かれちゃって……」
「美味しそうな匂いがする…」
「ストップ。…ごめんね、お腹減ってるみたいでさ。にしてもよく襲われなかったね。四男はそっち六男は外にいたけど。行く宛がないなら此処にいれば?ハンターの周りに近付いてくるのはいないし」



甘い匂いにフラりと小森さんの方へと足を踏み出した支葵を止めつつ言えば、彼女はこくりと小さく頷いた。若干ながらつまらなさそうな莉磨の頭を撫でれば、ぎゅっと腕へとしがみついてくる。それにしても保護者は何時になったら戻ってくるんだろ。そろそろ挨拶も済ませているはずなのに。駄々をこねられる前にケーキを食べさせていれば、小森さんが不思議そうに私を見ていた。



「なに?」
「あ…お二人は吸血鬼なんですよね…?それなのに仲が良いなって。何て言うかアヤト君たちと凄く仲が悪いのに…」
「ああ、そう言うこと。二人とは三年前から一緒だし、他の吸血鬼とは違って信用してるから」



そう答えたところ二人がぎゅっと抱き着いてきたかと思えば頭をグリグリと押し付けてくる。恥ずかしいのか何かは知らないが、擽ったい。暫くすると落ち着いたのか顔を上げたが、体勢に変わりはない。動きにくいと訴えたところで二人が離れるはずもなく、諦めて気がすむまでそうさせていた。悠稀、好きー。両サイドから聞こえてきた言葉に小森さんが微笑ましそうに微笑んだ。そんな風に周りを警戒しながらも過ごしていれば、藍堂と架院がやって来た。どうやら挨拶周りもすんだらしい。枢がいないのは恐らく二人とは別行動を望んだためだろう。どうせ拓麻はいるのだろうから平気だろ。瑠佳が戻って来ないのは代わりに枢のとこに行ったためなのか。疑問に思いつつ、残りのケーキを口へと運ぶ。不意に藍堂が小森さんとの距離をつめた。



「可愛いお嬢さん、君の血液型って何型?」
「え、えっ?」
「藍堂、レッドカード」



その言葉とともに頭を叩けば、何すんだと私に掴み掛かってくる。莉磨と支葵が鬱陶しいとばかりの視線を向け、架院が私から引き剥がす。相変わらず架院の苦労性は絶対に藍堂が原因だろうな。はむはむとケーキをほうばりながら、そのまま捕まえとけと架院には言っておいた。ついうっかりで優姫の手を噛んだ馬鹿だ。血の匂いに引かれて小森さんまで噛まれたら事だ。彼女の血は相当に美味しいらしい。その匂いがすれば、この場は大変なことになる。最悪、死人が出るかもね。



「悪い、気にしないでくれ」
「寧ろ見なかったことにして。これアホだから」
「は、はあ…」
「誰がアホだ!誰が!悠稀、お前いい加減に僕を馬鹿にするのも…!」
「十数えるうちに小森さんに謝れ。枢に言い付ける」
「すいませんでした!!」
「い、いえっ!気にしてないですから!」



何てプライドのない男だ。言い終わるか言い終わらないかで頭を全力で下げやがった。軽蔑したような視線を藍堂へと向ける両サイド二人を宥め、恨めしそうに私を見てくる藍堂に目潰しをしておく。痛みに悶えていようが関係ない。寧ろざまあみろ。あたふたし始めた小森さんに気にするなと告げたところで拓麻が余計なものを引っ付けて帰ってきた。余計なもの長男三男。……一度、死なないかな彼奴。

<<>>


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -