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かわいい距離感



海外出張から両親が帰ってきた。けれど、きっと、すぐにまた行ってしまうのだろうけど。そう思いつつ、なまえは、その土産物として買われてきたものを宮地家に届けるために住宅街を歩いていた。家からは、あまり近くはないけれど今日は何だか歩きたい気分だったのだ。幼い頃から何度も歩いた道を抜け、立ち止まった家のインターホンを鳴らす。



「いらっしゃい、なまえちゃん。また暫く見ないうちに綺麗になったわねー」
「そんなことないですよ。これ、お土産です。お母さんたち帰ってきたので」
「ふふっ、ありがとう。清志なら部屋よ」
「はーい」



靴を脱ぎ、勝手知ったる宮地家の二階へと上がる。部屋の扉をノックすれば、すぐに中から声が聞こえてきた。部屋では宮地が机の前にあるイスに座っており、どうやら勉強中だったらしい。これは少しタイミングが悪かったかも。そう微かに眉を下げつつも邪魔にならないように部屋の隅へと座れば、くるりとイスの向きが変えられた。



「やっぱり受験勉強の邪魔になった?」
「いや。母さんからお前が来るって聞いてたし、来るならこの時間ぐらいだろうって思ってたからな」
「じゃあ、それまでずっと勉強してたんだ。大学、帝光大だったけ?」
「そっ」



三年の宮地は、ギリギリまで部活をして受験に望むらしい。そのために常日頃から勉強を怠らずにいる。自分にも他人にも厳しい宮地を純粋に尊敬しているなまえは、その姿を見ながらクッションを膝に抱えた。この問題だけを解いてしまうとの言葉に小さく頷き、部屋に置いてあった近代小説へと手を伸ばす。それを暇潰しがてらに読んでいるうちに宮地は解き終えたらしく、彼女の隣へと座った。そして徐に長い水色の髪へと触れる。



「暑くねぇの、これ」
「結ぶのが面倒だったの」
「髪ゴム貸せよ、あんだろ」
「んー」
「三つ編みで良いか?」
「宮ちゃんがやってくれるなら何でも良いよ」



小説を置き、近くにあった雑誌を手繰り寄せる。その表紙は宮地が好きなアイドルが緩く結ばれた三つ編みで写っていた。なるほど、それで三つ編みか。なまえは、ペラペラと雑誌を捲りながらそのアイドルを見ていく。基本的に他人の容姿にも興味がないため何となくそうやって見ていれば、綺麗に三つ編みに髪は結わかれていた。



「ありがとう。…宮ちゃんってアイドルにいくらつぎ込んでたっけ?」
「覚えてねぇな。何で?」
「壱くんがこないだ凄くつぎ込んでグッズ買ってきたから気になった。…あ、ラブレター。宮ちゃん、相変わらずモテるね」
「お前もだろ。つか、なまえの方が多い。こないだの奴だって轢いて良かっただろ」
「こないだ…?ああ、隣のクラスの」



宮地と待ち合わせしている時に運悪く告白してきた隣のクラスの男子生徒を思い出してみる。だけれど、あまり顔を思い出せそうにはなかった。自分を好きになった人間に対しても不誠実な自分だが、こういう点に関して宮地は誠実なぶん相手を覚えている。どうやら性格は似てると言われても恋愛に関しては全く似なかったらしい。そんな事を考えながら宮地の足の間に座って、その体を預けた。そのまま録画していたらしいアイドル番組を見始める。内容はよく分からないが、取り敢えず大人しくそれを見ていた。



「宮ちゃんは付き合うならアイドルがいいの?」
「アイドルと付き合いたい奴は違うだろ」
「ふーん。じゃあ何時になったら宮ちゃんに彼女が出来るんだろ。壱くんは先週また別れたよ」
「はぁ!?それ一ヶ月前に付き合い出したっつー奴だろ?」
「正確には三週間と四日前かな」
「有り得ねえ…。そう言うなまえは、どうなんだよ。高尾辺りがうっせえけど」
「そもそも興味がない。それに貰い手がなかったら宮ちゃんが貰ってくれるって言うから」
「ああ、それな。俺もお前なら別に良いし」



昔からよく冗談で言っていた言葉だが、お互いにそれでも良かったりした。何年も先の事なんて分からないのだから結局どうなるかは分からない。それでも今はなまえにとって、この距離感が心地よかった。遠慮もせずに言いたいことを言える。普段、猫を被っているから余計にそれが心地好く思えるのだ。お腹に回された手の上に自分の手を重ねつつ、なまえは小さく欠伸を漏らした。



「眠いのかよ」
「ちょっとだけ。お母さんたち時差ぼけで明け方まで話すから寝れなかったの。…十分したら起こして」
「叔母さん達も相変わらずだな」



苦笑を漏らす宮地に頷くと本格的になまえは微睡み始めた。寝顔は昔と変わっておらず、少しだけ幼く見える。そんな彼女を抱き締めた状態で残りの番組を見ていた宮地だったが、前髪を払ってその額へと口付けを落とした。





あとがき

リクエストありがとうございました、ふぇい様。この二人は普段から仲が良いので無自覚にイチャコラしてそうだと思ってたら、こんな話になりました。恋愛話とかしなさそうなのに宮地だけにはする夢主が想像できて微笑ましく思いながら書かせていただきました。

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