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ありしき日の出来事



「ほら、こっち!」
「まってよ、おにいちゃん」



酷く冷めた表情で兄である壱縷に手を引かれながらなまえはストリートバスケのコートまでやって来た。何でも新しい友達が出来て、その友達とやらがバスケをやってるらしい。そんでもって今日、一緒に遊ぶからと連行された次第である。と言うかそんな遊びに幼稚園児である自分を連れていこうとするのか。体格を考えて欲しいものだ。そう思いつつ、コートにいた眼鏡をかけた人物へと視線を向けた。一言で言うなら狐っぽい。と言うか胡散臭そう。兄と同じ歳のはずなのにいやに大人びているような気がした。



「しょーいち!おれの妹!かわいいだろ!」
「似てへんな」
「うるさい!そこには触れんな!」
「ほーん、かわええやん」
「ムシかよ!けど、そうだろ!」



あー、おにいちゃんうざい。そう思いながら、まじまじと顔を見つめてくる相手から逃れるように壱縷の背中へと隠れた。あまり顔を見られるのは好きじゃない。お世辞にも愛想が良いとは言えないなまえは、そのまま壱縷の背から顔を見せようとはしなかった。



「ワシ、嫌われとるん?」
「いつもこんなんだから気にすんな。まあ改めてうちの妹のみょうじなまえ。二つ下」
「まだ幼稚園なん?これは将来はべっぴんさんになるでー」
「ふふんっ、当たり前だろ!」
「あ、せや。飴ちゃんあるで飴ちゃん」
「……ありがとうございます」
「まさかの飴で!?」



なまえは出された飴を受けとると小さくお礼を言ってからそれを口へと運んだ。普段は初対面の人間だと警戒して話そうとはしない彼女が飴で釣られると思っていなかった壱縷は微かに衝撃を受けていた。それでも自分の友人相手にちょっとだけでも話をしてくれたと嬉しそうになまえの頭を撫でていく。だが、彼はそれを数十分後に後悔するとは思いもよらなかった。



「あいそう?」
「せや。初めて会う人には、あいそう良くするんやで」
「なんで?」
「その方があとが楽っちゅー話や」
「ふーん。おおきくなるとめんどうなんだね。べんきょーもしたくない」
「それはしといて損はないで?」
「おもしろくないもん。バスケのほうがすき」
「せやかてアホじゃアカン。世わたり上手になるんには、ひつようやで?」



あれ、何か話が可笑しくないかと壱縷は思った。幼稚園児相手に愛想とか世渡り上手になるとかって可笑しくないか?と。それでもなまえ本人が興味を持っているらしく、バスケットボールを抱えたまま大人しく話を聞いている。少々幼稚園児らしからぬ言動をしても、なかなかに純粋な妹にこれは宜しくないと壱縷が思っていれば、不意に彼女が今吉の話に手を叩き始めたのだ。しかも目がキラキラ輝いている。



「しょーくんすごい!」
「せやろ」
「翔くん!?なにそれ!?いつのまに!?」
「おにいちゃん、きゅうにおおきなこえださないで」
「わ、悪い……。けど、おかしいだろ。うちのなまえは人見知りなのに…!」
「そうなん?ちゃーんとお話できるええ子やんか」
「べつに、ひとみしりじゃないもん。おにいちゃんのウソつき」
「ウソじゃないからね!?なまえみたいに初対面のやつからにげるのは人見知りなの!」
「ウソにはなー、ええウソと悪いウソがあるんやで?」
「なんで?ウソはいけないことだって、まさひろおにいちゃんがいってたよ?」
「時とばあいによるもんや。ついでに内容な」
「ちょ、まじやめろ!よけいなこと教えんな!」



慌てて二人の間へと壱縷は割り込み、話を遮った。だが、なまえは既に興味津々。他のことに注意が向かないぐらいに話が聞きたいと目を輝かせている。それを邪魔する壱縷を睨んでいる始末だ。良い嘘と悪い嘘についての話が始まり、それを聞いている彼女は満足そうに首を縦へと振る。絶対に教育に良くないと嘆く兄のことは完全に眼中にはない。



「しょーくん、ものしり。おにいちゃんみたいにバスケばっかじゃないんだね」
「おまえのせいで兄としてのそんげんが……うぅ……」
「しゃーないやん。なまえは、知識欲がおうせいなんやもんなー」
「ちしきよく?んーっと……しりたがり?」
「そんなもんや。ほんま頭ええ子やなぁ」



頭を撫でられ、嬉しそうになまえは笑みを浮かべる。それを目にした壱縷は、彼女が喜ぶならこれでも良いのかもしれないと思った。例えあまり宜しくない話だとしても。そして、それを後悔するのは更に数年後であった。





ありしき日の出来事

壱くんって、やっぱ頭が悪いんだね
え、何だよ急に……
翔くんが壱くんが今日やったアホな事を教えてくれた
翔一っ、あの野郎…!




あとがき

リクエストありがとうございました、エリーゼ様。今吉と夢主の出会いは、こんな感じです。まだまだ純粋だった頃に出会ったのに反抗期で邪険に扱われるようになりました。それでも、やっぱり昔からの幼馴染みなので夢主はこの頃と変わらず今吉のことが好きだと思います。

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