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あなたの肩にもたれかかる西陽



「おい、何時まで後ろから着いてくるつもりだ?」
「うっ…」



黛さんの後を追い掛けていると振り返らずに言われた言葉。それに咄嗟に返答が出来なかった。何時までって言われても…単独行動禁止って言われてるからなぁ。あの赤司くんから直々に言われちゃったし…破ったとなると後が怖い。恐怖に体を震わせていると黛さんが不意に振り返った。肩越しに視線が合い、それに自然と足が止まってしまう。だけど、何も言わずに再び前を向かれたので黙って、また後を追い掛けた。そんな事が繰り返されること計三回。四回目に黛さんが溜め息を吐き出した。



「お前は子鴨か」
「子鴨…。単独行動禁止ですし、私と黛さんで動くように言われてますから、その…嫌でも我慢して下さい…」
「嫌だとは言ってないだろ。オレは何時まで後ろから着いてくるつもりだって聞いてるんだ」



何だか意外な言葉が聞けた気がする。嫌ではないんだ。うん…ちょっと、嬉しいかも。じゃあ何で溜め息を吐かれたのだろうか。分からなくて首を傾げたところ、また溜め息を吐かれた。うむむ…黛さんって結構、謎の人っぽいから分からない。しかもポーカーフェイスだから余計にそう思うし…。三メートルほど先で立ち止まっている黛さんを見ていると無言で手招きをされた。これは来いって事だよね…?手招きされるままに歩みよれば、何故か指弾される額。痛みと驚きに反射的にそこを押さえたのは言うまでもない。涙目になりながら半歩後ずされば、今度は腕が掴まれる。な、何ですか…。疑惑の目を向けつつ、未だに痛む額を撫でた。



「後ずさるなよ」
「黛さんが人の額を思いきり指弾したからです…!」
「それは何時まで経っても離れた後ろを歩いてるからだろ」
「だ、ダメなんですか…」
「ああ」



嫌じゃないけどダメって、どういう事ですか。分からない、黛さんの思考回路が分からない…。かなり本気で悩んでいる私の額に第二撃目が加えられ、再び反射的に後ずさろうとしたものの腕を掴まれて出来そうにもなかった。もう、これはイジメの域だ…。



「お前、本当にバカなんだな。おまけに小さい」
「そ、それは関係ないです…!確かに小さいですけど…きっと、これから…伸びる、はず…」
「いや、無理だろ」
「少しぐらい希望を持っても良いじゃないですか…」
「大体の成長期は既に終わってるだろ。…取り合えずお前はオレの後ろを歩くな隣を歩け。後ろにいられると、いざと言う時に困る」



その言葉とともに前髪をくしゃりと巻き込みながら頭を撫でられる。また額を指弾されると身構えていた分、拍子抜けした気分だ。それにしても黛さんに頭を撫でられた…。何だか意外な気分で見上げていれば、表情に出ていたのか。少々ムッとした顔で私の鼻を摘まんでくる。地味に苦しいんですけど…!何とか、その手から逃れて黛さんの隣に並ぶと当初の予定通りに辿り着いた理科準備室の捜索を開始した。はっきり言って、もう帰りたい。だって、ホルマリン漬けの鼠と目があったような気がする…。黛さんのブレザーの裾を掴みながら行動をしているために若干足手まといな気がするが、それどころではない。だって…だって…凄く怖いんだもの…。怯えながら奥へと探索の手を伸ばしていると隣の理科室から物音が聞こえてきた。それに反応し、そちらへと視線を向けようとしたところで口許を覆われ、頭を下へと押されて強制的にしゃがまされる。黛さんを見れば、口許に人差し指を当てていた。それに頷けば、口を塞いでいた手が退かされる。



「よく見えなかったが化け物の類いだな…奥に隠れるぞ」
「は、はい…」



低姿勢のまま物音をたてないように一番奥へと進んでいく。奥にあるのは、どうやら資料関係のものらしく戸棚にところ狭しと置かれている。黛さんは、そのうちの一冊を引き抜いて頁を捲り始めた。の、暢気すぎる…怖くないのかな…。



「ま、黛さん…っ、」
「慌てても仕方がないだろ。どちらにしろ化け物がいなくならないと此処からは出れないからな」
「た、確かに…あ、ドアの鍵…」
「念のために掛けてきたから心配ない。…奴がドアをぶち破らなきゃな」
「よくそこまで頭が回りますね。私なんて此処に来るまでに鍵のことなんて、すっかり忘れてたのに」
「こう言う時には大体そうしとくのが一番だろ。分かったなら大人しくしてろ。集中できない」



え、本当に読むつもりなんですか…?そのまま黙って視線を本へと落とし始めたので隣に座り、同じように本を手にとってみる。それと同時に物音が大きく、そして先程よりも近くで聞こえてきた。どうやら化け物は、理科室を這いずり回っているようだ。本を読むなんて事は出来ず、声を出さないように唇を引き結んで膝を抱えてしまう。見付かったら、どうしよう…。そんな嫌な事ばかりを考えてしまう。我ながら本当にネガティブな思考回路をしてるよね…。小さく溜め息を吐いていると不意に黛さんに肩を引き寄せられた。



「安心しろ。オレがいる」



微かに微笑みながら黛さんは言うと安心させるように頭を撫でてくれる。それに小さく頷けば、不思議と不安は薄れていた。





あとがき
リクエストありがとうございました、葉丸様。何と言うか黛でないような黛が出来上がってしまったような気がしましたが、如何だったでしょうか?どうやら黛に頭を撫で撫でされたいと言う願望が全面的に出てしまったようです。

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