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部室荒しの怪



「青学?」
「ああ。そいつらが怪奇で悩まされてるらしい」
「ふーん。で?」



なまえは跡部の言葉にただ首を傾げながら鯛焼きを食べ続けた。怪奇に悩まされてるから何だと言うのだ。それが率直な彼女の感想であった。動くのが面倒くさいのに誰が好き好んでそんな面倒事に首を突っ込むと言うのだろうか。そんななまえの頭を向日が殴り、無言で宍戸が彼女を担ぐ。そのまま誘拐でもする勢いで車へと投げ入れ、青学へと向かった。こうなった事の発端は些細な事。練習試合を申し込んだところ手塚に断られた跡部は、その理由を問い質した。そうすると部室が荒らされているとの言葉が返ってきたのだ。詳しく話を聞いた結果、彼は経験から人間の仕業でないと結論を導き出した。そこで練習試合のついでに解決してやるとなまえ抜きで話を取り付け、今に至るのである。



「なまえの出番やさかい、寝んといてや」
「えー、もう若干と言うかかなり眠い…」
「そこは頑張って下さい」



日吉の言葉に生返事を返して三十秒後には彼女は寝ていた。それに無言で拳を固めた日吉に慌てて鳳が待ったを掛ける。そんな車内での時間を過ごしていれば、あっという間に青学へと着いていた。揺すっても起きようとしないなまえを何時ものように忍足が背負い、青学のレギュラーと挨拶を交わす。当然ながら視線が集まったのは言うまでもない。



「ねえねえー、その女の子だれ!?」
「つーか寝てないっスか…?」
「怪奇現象とやらの解決にこいつの力が必要だから連れてきた。安倍なまえだ。おい、なまえ!いい加減に起きやがれ」
「…うっ、ん………ねこ、沢山……」
「どうやら寝惚けてるようだな。データを取るのは後にして部室に行こう」
「…此処で良い、話を聞かせて。ついでに寝惚けてないから。猫、その人の後ろにいる」



相変わらず眠そうながらも、はっきりとした口調でなまえは言葉を口にした。そして徐に忍足の背から降り、菊丸の側へと寄っていく。そのまま足元を見下ろしたかと思えば、不意に膝を折った。見えている氷帝からしてみれば、彼女が沢山の猫の霊に触れようとしているのが分かる。だが、まったく霊感がないに等しい青学からしてみれば、可笑しな光景なのだ。桃城が僅かに後退り、菊丸も困惑したようになまえの行動を見つめていた。だが、それは直ぐに驚愕へと染め上がる。彼女の手が何かをなぞるような動きをしたところから猫の姿が現れたのだ。



「ど、何処から出てきたにゃ!?」
「この子達は皆もう死んでる動物霊。悪意なく生気を吸っちゃうから君から引き剥がす。ちなみに今は視えるようにしてるだけだから。面倒くさいけど」
「跡部、彼女は一体…」
「陰陽師だ。うちのテニス部での怪奇はこいつが全て解決してやがる。さっさと片付けたら約束通り練習試合をしてもらうぜ」
「ああ。…すまないが、宜しく頼む」
「んー。そんで被害とかの状況は…あ、君で良いや。教えて。視えてるみたいだし」



指名された不二は驚いたように目を瞬かせ、周りも酷く驚いたように彼を振り返った。視えることを黙っている人間は多い。逆に視えない人間ほど視えると風潮するものだ。不二は直ぐに状況を説明し始めた。二週間前ほどから部室が荒らされるようになり、小さな男の子の霊を視るようになったと言うこと。その霊は何時も何かを訴えてくるようだが、流石にそこまでは分からないようだ。なまえは、話を聞き終えると部室の様子を見ることにした。そちらへと例のごとく運んでもらい、部室の扉を開けると何かが飛んでくる。それはウサギのマスコットで、なまえの顔面へと見事に直撃。それでは飽きたらず、顔面を引っ掻く動きをしている。無言で彼女は、マスコットを床へと叩き付けた。



「なまえちゃん、痛そう…」
「まあ平気。と言うか凄いな、これ」



部室の中では色んな物が飛び交えっていた。そんな光景を見て青学メンバーは硬直し、あんぐりと口を開いているような状況。どうやら、こんな状況を目にするのは初めてのようだ。例の男の子の霊へと目を止めたなまえは、その子供が指差す方へと視線を移す。ロッカーを指差しながら泣きそうな顔をして消えていく。口許は動いていたが、声が聞こえては来なかった。おそらく力が弱い霊なのだろう。不意に本が此方へと飛んできたために慌てて近くにいた大石が扉を閉める。その直後に次々と何かがぶつかる音がした。



「僕もこんな状況は視たことなかったな…」
「本当にどうなってるんスか……」
「ああやって部室が荒らされてたわけか…どうしても犯人が見付からないわけだね」
「それでなまえ、どうなってるんだよ今の」
「ふぁい?」
「って、この人!鯛焼き食ってんだけど!」
「いや、だってもう何か面倒くさいし……もぐもぐ…取り敢えず、彼方さんが暴れてるから…もぐもぐ…」
「話しながら食べるのはあかん言うとるやろ。はよ、これを解決せな練習試合出来ひんねんで」
「…はぁ、面倒くさっ。視たところ低級霊が暴れてるって感じ。悪意の塊そのものだから祓うのが最良だろ」
「な、何か意外なぐらいしっかりとした答えだにゃ…」
「言動で全てを台無しにする人ですけどね。それでなまえさん、このポルターガイスト現象真っ只中の部室にどうやって入るつもりです?」
「ん?えっーと、じゃあ…行ってよし?」
「テメェは舐めてんのか?あーん?誰が榊監督の真似しろっつった」



無表情で榊の真似をしたなまえの頭を容赦なく跡部が叩いた。叩かれた頭を撫でながら抗議の目を向け、鞄から清水を取り出す。それを部室の周りに掛けてくるようにと海堂へと渡した。すぐに走っていく様子を見つつ、ちまちまと折り紙をするなまえに誰もが目を丸くさせた。氷帝では、祓うときにこのような事はしない。それなりに意味があるのだろうと黙ったまま見ていると部室の周りに清水をかけ終えた海堂が戻ってきた。そこで漸くと彼女は部室のドアへと手を伸ばす。



「危ないんじゃないかな?まだ物音がするから」
「ん、平気。清水で簡易的に結界を張ったからこれ以上は集まらないし時期に収まる。けど、待ってるのが怠い。早く練習試合したいんでしょ」
「そりゃそうだけどお前が怪我するのは困るし…」
「つーか、その折り紙は何なんスか?」
「こうする」



扉を開けて折り紙だけを投げ込むと直ぐに扉を閉めてしまう。直後、犬の鳴き声が聞こえてきたかと思えば、激しい物音。それが収まった頃に再び覗いてみると折り紙で折られた犬が床に転がっていた。懐から取り出した式に部室の片付けを命じ、問題のロッカーへと足を向ける。それを開け、中を見渡したなまえはとある場所に目を止めた。ロッカーの天井に白い紙が貼られている。当然ながら彼女は、それに手が届きそうにもない。



「あれ、取って」
「むっ、これか?」
「そう。……こっくりさんの紙だ」
「何でそんなものがうちの部室に?」
「多分、悪戯だろう。こっくりさんの使用済みの紙をロッカー内に隠すことで低級霊を集めた。本人はそうなるとは思ってなかったんだろうな。結果、部室が荒らされることになったわけだ」
「じゃあ、あの男の子の霊は?」
「恐らくこの紙に寄せられて来たんだろうね。それで自分が縛り付けられている原因を取り除いて欲しかった。だから訴えてたんだろ」



悪戯の犯人には此方で探しておくと告げ、なまえは紙を懐へとしまいこんだ。せっせと掃除をする式を一瞥し、練習試合でも始めたらどうかと彼女は口にする。



「ああ。…本当に助かった。このままでは練習にも支障が来たし続けるところだった。この礼は改めてさせてもらいたい」
「別に面倒くさいからお礼とかはいい。そんなことより寝るところ何処かにない?もう眠くて眠くて……」
「なまえさん!寝袋ありますよ!」
「何だと鳳くん。はやくそれ広げて広げて」



寝袋を広げる鳳の元へと自ら歩いていき、すぐに其処へと収まると三秒ほどで寝息が聞こえ始めた。そのあまりの速さに青学レギュラーが唖然としていたことを当の本人は知らない。そして桃城や菊丸に悪戯をされても目を覚ますことはなかった。





あとがき

リクエストありがとうございました、ひな様。青学は、あまり書かない学校なのでわくわくしながら書かせて頂きました。やっぱり絡むなら怪奇関係だと思いましてこのお話にさせて頂きました。

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