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花宮とテーマパーク



イライラと膝を指先で叩きながら組んでいた足を組み直した。あー、何でこうなった。マジでやってられない。そうなまえは独りごちながら頬杖をつく。完全に隣にいる相手を意識の外に追いやり、小さく舌打ちを漏らした。そんな相手も相手で彼女と同じ空間にいるのが嫌なのか似たような事をしている。



「おい」
「何ですか、花宮先輩」
「彼奴らまだかよ」
「知りませんよ。先輩のご友人なんですからそちらの方がご存じなんでは?」
「チッ、ホント感じ悪ィ女だな」
「お前に言われたくない」



事の発端は原の発言であった。曰く、新しく出来たテーマパークに行きたい。一人で行くのはアレだからとバスケ部の面々を誘い、それだと花がないからなまえを呼んだのだ。其処までは良かったのだが、何故か言い出しっぺであるはずの原はおろか他の三人も待ち合わせ場所に来ないのだ。結果として花宮と彼女が二人きりで待っていると言う非常に気まずい状況となっている。何度か連絡をしたが四人からの返事はない。殺す、そんな物騒な言葉を二人は、吐き出した。漸く返事が来たかと思えば、寝坊したから先に入ってての事。それを目にしたが故の発言であった。



「……ちっ、行くぞ」
「はいはい」
「適当に行くとこ決めろよ」



その言葉になまえは手にしていたパンフレットを広げた。別段、行きたい場所はないが興味があると言えばあるものがある。さて、どうしたものか。何処のルートを通れば、効率よく回れるかを考えていれば、花宮が横からパンフレットを覗き込んできた。それに応じるように見やすいようにとパンフレットを動かす。そんな様子を影から覗く四人がいた。言わずもなが、先程二人を苛立たせていた四人である。



「漸くとテーマパーク内に入ったか」
「見てて面白ェよな、あの二人。罵りあってるくせに仲良いし」
「……つか、オレら後で殺されねーか?」
「そんなのこんな計画を立てた時点で分かりきってたでしょ」



物陰から観察していれば、なまえが何やらパンフレットを指差し、それを見ていた花宮が眉を寄せている。どうやら、アトラクション関係で揉めているようだ。それから暫く何かを言っていたが、花宮の方が折れたらしく満足そうになまえはパンフレットを畳んだ。それから二人は歩き出した。手を繋ぐなんてことはなく、一定の距離を開けて歩いてはいるが。



「花宮先輩、あれ食べたいんですけど」
「あ?…あんな甘そうなもん食うのかよ」
「先輩の舌は異常でしたもんね。カカオ100%とか人間の食べ物じゃない」
「ふはっ、お前の舌がお子さま過ぎんだろ。珈琲も飲めねぇもんな」
「ブラックじゃなきゃ飲めますバカにすんな」



ごそごそと財布を取り出しながらなまえは不機嫌そうに言葉を返した。図星を疲れたがゆえに眉間に皺が寄っている。それを見た花宮が笑えば、更に彼女は眉間に皺を寄せていく。並んでいて順番が回ってきた所で店員に笑顔を向けながら注文をしてしまう。受け取った出来立てのアップルパイを持ちながら振り向いたなまえは元の不機嫌そうな表情へと戻っていた。



「不細工が更に不細工になってんぞ」
「煩いです。聞こえねぇとでも思ってんのかよ。猫被りなんて言われる筋合いないんですけど」
「聞こえてたのかよ。耳は正常らしいな」
「……ちっ、オタマロが」
「てめっ…」



額に浮かぶ青筋に伸びてくる腕。これは、おそらく頬を思い切りつねられると察したなまえは先手を打つことにした。甘いものが嫌いな花宮に買ったばかりのアップルパイを向け、半ば強制的に食べさせた。途端に歪む顔。彼女は逆に満足そうに口角を上げていく。他人の嫌がる顔は見ていて楽しいものだ。それが、花宮のような人の不幸を好む人間のものならば尚更。なまえ自身、自分が歪んだ感性の持ち主である自覚はある。自覚をしていても感性と言うものは直るものでもない。だから彼女は隠すこともなく笑って見せた。



「あまっ…」
「眉間の皺が凄いですよ、先輩。そんなに嫌ですかね?」
「砂糖の塊じゃねぇかよ、デブになんぞ。つか、珈琲買ってこい」
「砂糖五本ほど溶かしてきますね」
「……座ってろ、くそ女」
「一言余計です」



近くにあったベンチに座り、足をぶらつかせながらアップルパイを咀嚼しつつ、珈琲を買いに行く花宮の姿を見送ってしまう。確か此処に至るまでに珈琲を売ってた場所は数ヵ所あった。テーマパーク内のため、自販機があるはずもないから其処らへんで買ってくるのだろう。ならば、最低でも帰ってくるのに五分以上は掛かる計算だ。加えて混んでいれば十分は確実だろう。さて、その間はどうしたものかと、なまえは食べ終えたアップルパイの包み紙を握り潰した。早くも絡まれかけている自分に激しく苛立ったのは言うまでもない。感じる視線にイライラしていると、予想よりも早く花宮は戻ってきた。その手には、珈琲のカップが二つ。



「……そんな甘かったですか?」
「あ?ついでだから買ってきてやったのに何だよ、その面。ただでさえブスが更にブスになってどうしようもねぇな」
「黙れゲス」



売り言葉に買い言葉。互いに罵倒しながらも珈琲を差し出す花宮にそれを受け取るなまえの図は、非常に見ていた四人からしてみれば不可思議なものであった。なまえは珈琲にミルクが入ってたことに目を瞬かせながらも、それを飲んだ。だが、途端に噎せ込み、恨みがましい目をしながらハンカチで口許を押さえた。それを隣で見ていた花宮は嘲笑っている。



「ふはっ、そんな素直に飲むとは思わなかったな。オレがついでで大人しく買ってくるわけねえだろバァカ!」
「殺す…絶対に殺す…」
「瞳孔開ききった目でこっち見んな、キモい」
「テメェのせいですよ、クソが。何いれた、これ…塩ですか?刺激臭は、しないから油断した…」
「塩と砂糖にそこら辺にあったもん適当に混ぜた。飽和状態にならねえように苦労したんだから有り難く飲めよ」
「お前が飲め。つか、下らねえことに頭を使ってんじゃねぇですよ」



未だにダメージが残っているなまえは、口許を押さえたまま飲み物を買いに走った。それを笑う花宮。その後、子供のようにお互いを騙しあっている様子を影から見ていた四人は、こいつら意外に仲良しだと思ったとか思わなかったとか。




後日談

「誘っておきながら寝坊した挙げ句、来ないなんて…どの面下げて私の前に面見せてんだよ。あ?」
「それぐらいにしとけ。ペナルティの過酷メニューやる前にくたばられたらつまんねーだろ」
「ああ、良いですね、それ。是非、見学させて下さい。しっかり応援もしますから、ね?」
「それなら頼んだよ」
「(絶対に応援じゃない!!しかも二人して超笑顔\(^o^)/)」

悲惨な四人の姿が目撃されたとか。





あとがき

リクエストありがとうございました、あゆみ様。特に指定がなかったので四人によって計画されたデートでした。あまりイチャつくような二人でもないので、こんかものかと…。ですが、普通に仲が良かったりする二人を少しでも表現できていれば良いかなと。ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

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