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世界崩壊、5秒前



あれ、此処って何処?わたし…なに、してた…?目が覚めた場所は図書室だった。だけど、そこにいる理由も分からなかったし、何より記憶がない。所謂、記憶喪失と言うもののようだ。酷く実感がなくて他人事のように感じられたこと。だけど、他の同じような立場に立たされた人達と遭遇して記憶がないことが恐怖へと変化していく。彼らはお互いに知り合いのようだし、実質的に私は一人のようなもの。そのなかで記憶がないなんて口に出来るだろうか。辛うじて覚えてるのは名前だけ。あとは何も分からなかった。ぎゅっと膝を抱えながら体育館の隅へと座り込む。そのうち話し合いとやらのために体育館の中央で円になって集まりだした。行かないといけないけど…。小さく溜め息を吐き出しながら立ち上がり、足取り重くそちらへと足を向ける。空いた隅の方に腰を降ろした。



「……どうやら、顔見知りではないのは君だけのようだね。名前を聞いても?」
「あ…みょうじなまえ、です」
「みょうじさんは何故こんな所にいるか心当たりはあるかい?」
「いえ、ないです…」



そう言って首を横へと振った。自分から話題がそれ、探索の話になった途端にどっと肩から力が抜けていくのが分かる。名前と理由以外は踏み込まれなかった事にひどく安堵した。だって、それ以上は本当に何も分からないから。そもそも、どうしてこんな気味の悪い校舎にいて化け物に襲われなければならないのだろうか。体育館に来るまでに遭遇した化け物を思い出して吐き気がしてくる。ぐるぐる廻る思考の片隅で不意に名前を呼ばれた事に気が付き、驚きに肩が震えた。



「みょうじさん、何持ってるかだってー。震えてっけど、大丈夫?」
「あ、すいません…大丈夫です。持ち物は……」



制服のポケットをあさり、中に入っていたものを取り出す。携帯とか何の変鉄もないものばかりが出てくるなかで一枚の紙切れが混ざっていた。それを関西弁の人が手に取り、紙切れに書いてある文字を口にする。まったく心当たりのないメモ。それは複数枚、存在するような物言いが誰かから漏れた。私が一番最後に合流した人間のために、それより前に多少は情報を得ているようだ。それを知りたい気持ちよりも自分の記憶の方が気にかかったのは言うまでもない。



「それでは海常が探索にまわるっちゅーことで異論はあらへんな」
「おう」



どうやら学校単位で動くようだ。よくよく見てみれば、同じ制服を着た人達で固まっているのだから当然と言えば当然なのだろうけど。自分の学校も当然ながら記憶にないため、話し合いが終わってから運良くポケットに入っていた学生証を見てみる。秀徳高校在学の二年生だと分かったところで何も記憶に甦ってはこなかった。続いて携帯のアルバムを見てみたが、これと言って思い当たる節もない。同じ制服を着た誰かと写ってる写真を見ていると声を掛けられた。手招きをする、座っていても大きな身長だと分かる人。そろそろと、その人と周りにいる人達のもとへと足を動かした。



「あのっ、何か…?」
「独りぼっちじゃ、寂しいだろ!」
「え、あ…」
「お前はもっと言葉を選べよ!」
「つーか何で自分と同じ学校の奴等のとこ行かねぇんだよ?彼奴らと同じだろ?」
「えっと、知り合いじゃないから……」



赤い髪の人が指差す人達が自分と同じ学校の人間だと漸く気が付いた。だけど、記憶がない私にとっては知らない人間。彼方からも声を掛けてはこないのだから知り合いではないはずだ。頭を必死に回転させて不自然ではない理由を、そうやって口にする。後ろめたいけど記憶がないなんて口が裂けても言えないから。一先ず輪に入って話さないかと言われ、恐る恐る其処へと腰を降ろした。ふと、視界に映る水色。何時の間にか隣にいなかったはずの人が座っていた。驚きながら声が出そうになるの堪え、其処から後ずさる。



「え、え…?」
「すみません、驚かせてしまって」
「ああ、黒子は影が薄いからみょうじさんは気が付かなかったんだな」
「影が薄い…?」
「こいつの特徴みたいなもんだよ!」



影が薄いのが特徴って何だ、それは。驚いてしまったことを謝りながら元の場所まで戻ると自己紹介が開始された。誠凛高校のバスケ部の人達らしく、何て言うかそう。警戒心が薄いと思った。だって他の人達は明らかに警戒した目をしていたのに。特に赤い髪をしたオッドアイの彼は、それが顕著だった。観察するような、全てを監視されているような気分が彼に見られるだけでしてくるのだ。だから、私は彼の視界に入りたくはない。



「みょうじは、黒子と火神を除いた俺達と同じ歳か。だったら霧崎に陽泉の二人だろ?それに洛山の三人とか…良かったな!同じ歳の奴が沢山いるぞ」
「あ、はい…」
「何が良いのか分かるかよ、木吉」
「…木吉さんは天然なんですかね」
「それも重度のね」



なるほど、だから一番警戒心が薄いのか。こう言う人って何となく無謀な事をやろうとするような気がするんだけど。そう思った矢先に交流の輪を広げるとかで見た目が不良のような人達がいる霧崎の人達へと声を掛け始めた。それに嫌だとばかりに首を横へと振る。ハードルが初っぱなから高すぎる!幸いと言えば良いのか。どうやら不仲らしく舌打ちが返ってきたぐらいで事は済んだ。凄く睨まれた気がするけど。



「あ、そうだ!高尾、呼べば良いじゃん!同じ学校だし、みょうじさんも話しやすいと思うよ」
「はいはーい、呼んだっすか?」
「同じ学校だからみょうじさんも話しやすいんじゃないかって言ってたんだ」
「おっ、んじゃあ秀徳の方に移動します?宮地さん怖いけど」
「おい、刺すぞ高尾!」
「ねっ、怖いっしょ?」



やけにフレンドリーな高尾くんの言葉にぎこちなく頷いた。と言うか宮地さんって言う人が怖いのは分かってます。体育館に来るまでに助けて貰ったけど怖かったのは記憶に新しいもの。だけど、何となく移動しようかと思ったところで海常の人達が戻ってきた。一冊の日記帳を手にして。それが悪夢の始まりであった。





あとがき

リクエストありがとうございました、奈乃様。記憶喪失ものは書くのが大変ですが、何処までも話が広げられそうで楽しいものですね。記憶喪失だと、最初は誠凛と馴染んでいくような気がしたので誠凛が中心と言う話になりました。本編とは違い、他校と仲良くとなるのにかなり時間が要するのではないかと考えたところ、赤司と話せるようになるまでかなり時間が掛かるんだろと率直に思いました。

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