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おちびの受難



「あー、えっと…」
「御愁傷様ってやつか?」
「だな」



秀徳メンバーで校内を探索中に頭の上に何かが降ってきた。それをもろに浴びてしまった私の体は何故か小さくなってしまったのだ。そして先程のような言葉を上から順に木村さん、宮地さん、大坪さんと頂いたわけだ。緑間くんは目を丸くしてるだけで実害はないけど、問題は高尾くん。どうしてだか大爆笑状態。こんなの私は笑えないんだけどな…。ただでさえ低い目線が更に低くなって見上げていると首が凄く痛くなる。諦めて視線を己の掌へと向けた。小さくて少しばかりぷよぷよとしたそれは、まさしく幼稚園児のような手。外見を把握できないから断言できないけど、恐らくそのぐらいの歳まで若返ってしまったようだ。さて、何時まで笑ってるのかな、高尾くん。流石に私でも怒りたくなってくるよ。言葉には出さず、高尾くんの足を思い切り叩いておく。足の脛だから多少は痛いだろうし、それで笑いを引っ込めてくれ。



「…高尾、笑うのをやめるのだよ。みょうじ先輩が無言で抗議をしている」
「え、今の抗議だったの!?」
「…………」
「激しくショックを受けてるみたいだな」



ガーン。まさにこんな効果音が付きそうぐらいショックを受けていると不意に体が浮いた。にこやかに笑う大坪さん。何だ何だとキョロキョロしていれば、肩車がされて一気に視界が高くなった。おおっ、何て素晴らしい!何時もこんなに見晴らしが良いなんて羨ましい限りだ。受けたショックなんて何処かに飛んでしまい、その高さを楽しんでいるとそのまま移動となった。こうして見るとやっぱ皆さんの身長は大きいんだなぁ。あ、高尾くんはそうでもなさそうだけど。若干、恨みが残ってるためにそんな感想を抱いていれば、前方からやって来る化け物の姿を捉えた。その瞬間、視界が一気に切り替わっていく。物凄いスピードで走る大坪さん。そんな人に肩車されてるから、凄い空気抵抗を受ける形で私の体は軽く仰け反っている。そして怖い!



「……ひっ、きゃああああああっ!!」
「うるせぇぞ!みょうじ!」
「だ、だって…!!これはっ、!!」
「あ、なまえさんって絶叫系とかダメな人っしょ!」



ぶんぶんと頭を縦へと振って肯定を示す。だって喋れないもの。こんな、こんな……こんな怖いぐらいの速さで走られたら死んじゃう!涙目になりながら体育館へと運ばれた私は降ろされて直ぐに床へと踞った。地面に足が付いてることと先程までの絶叫体験に心臓が音を立てているのが、よく分かる。もうやだ…こんな体になったから…!緑間くんが赤司くんに今の私の状態を説明しているのが聞こえてきたが、それどころではない。そんな折りに此方へと近付いてくる人物が一人。へたりこんでいた体を起こすと葉山さんと目があった。……その笑顔に激しく不安を覚えたのは言うまでもない。言葉を発する暇もなく脇の下に腕がいれられ、そのまま持ち上げられる。足が宙ぶらりん状態になったことに恐怖を感じた瞬間、視界が一気に回り始めた。どうやら、物凄い勢いで葉山さんが回り始めたらしい。



「きゃああああああああっ!!やだやだやだ!!やだーー!!」
「あははっ、楽しーじゃん!!」
「たのしくなんかないですっ!!」
「こらっ、何やってんのよ!」
「あだっ!」



実渕さんによって地獄の回転アトラクションもとい葉山さんによる遊びから解放された私は最も安全地帯であろう誠凛さんの元へと足を向けた。秀徳でも良いんだけど、まだ報告中だし邪魔をしてはいけない。あと赤司くん怖い。だから、穏やかな人の集まりである誠凛さんを目指していたところで誰かとぶつかった。ううっ、回りすぎて平衡感覚が可笑しくなってる。そのせいで真っ直ぐ歩けなくてぶつかったわけだけど、相手が青峰くんだったのが誤算である。まともに喋ったことないし、ヤンキーっぽいし。あと見上げてると首が痛いよ。



「あ?」
「ひっ!」
「なーに怖がらせとるんや、青峰」
「別に怖がらせてねぇよ」
「ほんまかぁ?」



別の意味で怖い今吉さんが現れたので、一目散に逃げ出した。背後から何か声がしたけど聞こえないふりだ。もう誠凛さんのところにも行かないで大人しくしていよう。そうだ、体育館の隅で大人しく…あれ?本日、三度目の浮遊感にただ固まるしかなかった。背後から襟首を捕まれているらしく、目の前にいるのが劉さんであることから陽泉さんの誰かに持ち上げられているわけだ。恐る恐る振り返れば、福井さんの姿。実に楽しげな顔をしてらっしゃる。



「おー、チビが更にチビになって戻って来たな」
「ちょ、はなしてください…」
「つか、ちっちゃー。踏み潰しちゃいそうなんだけど」
「お前が言うと冗談に聞こえんわい」
「ところでみょうじさんって高所恐怖症なのかい?福井さんから敦に持ち上げられた時の方が何だか震えてるみたいだけど…」
「……はやくしたに、おろしてください」



氷室さんの言葉は図星だったから何も言わず、ただ降ろしてくれと懇願した。絶叫も高いところも嫌だ。視界が高くても平気なのは落ちる心配がない時だけだもの。大坪さんはちゃんと肩車してくれたけど、紫原くんは猫を持つような持ち方をするから怖くて仕方がない。ガタガタ震えつつ、地面に足がつくと同時にスタートダッシュを切った。また持ち上げられたら堪ったものじゃない。足の遅さを背後から霧崎さんに笑われたけど。小さな体の不便さを感じていれば、何だか強烈な視線を感じた。足を止めれば、森山さんと視線がかち合う。



「ああ、何て事だろうか!!でも大丈夫!こんな姿になったて俺は、なまえちゃんが――」
「いい加減にしろ森山!」
「痛い!何も殴ることないだろ、笠松!!」
「…あんたも災難スね」
「あ、はい…」



色々と災難過ぎて何とも言えない。それにしても森山さんは何を言おうとしたのやら。笠松さんから見事な右ストレート貰ってたけど。気になりはしたけど、未だに警戒心の塊らしい黄瀬くんと並んでるのが気まずいから黙って、そろりと足を動かし始めた。体育館の隅に腰を降ろし、大きく息を吐き出す。漸くゆっくり出来ると思ったが、再び好奇心に目を輝かせた葉山さんが此方へと近付いて来ていた。



「はやまさん、ストップ!ストップしてください!」
「えー」
「もういやですよ、あんなおそろしい…!」



血の気が引いていくような感覚に黙って走り出した。秀徳の元へと逃げ帰り、宮地さんの背後へと隠れる。これで、どうにか宮地さんが追い払ってくれることを祈るのみだ。背後で高尾くんが何やら人の髪で遊んでるけど今は気にしていられない。私の命が掛かってるんだもの。宮地さんの毒舌が炸裂し、それに膨れる葉山さん。そろそろ引いてくれるかと思った矢先に地獄の声がした。



「…小太郎、煩いよ。それと騒ぎを起こすなら僕の隣で大人しくしててくれないかい、みょうじさん」
「うっ」
「ひっ…!」



周りからの哀れみの視線を貰いながら恐る恐る一人分の空間をあけて赤司くんの隣へと移動をする。今までの中で一番震えていると噂されていたことを私は知らない。





あとがき

リクエストありがとうごさいました、田辺様。幼児化はあまり書いたことがないものでしたので此方も楽しませて頂きました。何だが幼児化した夢主にちょっかいを出すとしたら葉山かなぁと言うことで、こんな感じになりました。まだまだ本編が進んでないのでキャラとの絡みが少なくなってしまったのが申し訳ないです。


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