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わすれたくないあの背中



「黒子くん…?」
「ごめんなさい、なまえさん」



何で、そんな顔をして謝るの?分かんないっ、分かんないよ!普段とは違った雰囲気を纏う彼。状況も何も飲め込めないでいる私に背を向けていく。本当にこれは何?何が起きたの?不安と動揺、それと恐怖を感じながら黒子くんの服を掴んだ。


黒子くんは最初、ただのクラスメイトの一人だった。何となく名前だけ知ってたけど影が薄いとかの噂通りになかなか姿を見ることがなかった。けど、あの日にそれが一変したの。本当に単純だとは思う。廊下に落としたノートを必死に集めてたら、それを助けてくれて。その時に見た笑顔に心奪われた。それから頑張って、その姿を視線で追いかけた。それはもう大変なことだったけど。それから暫くして話すようになって仲良くなれたの。


だけど、今の状況は今まで一度も見たことない黒子くんを私の目に映してる。何で友達が倒れてて黒子くんの口許が血で汚れてるの。分かんないっ、でも、これだけは分かる。彼は人間じゃなかったんだって。彼が服を掴む私の手へと触れる。それだけで体が震えた。それを見たせいで、黒子くんが悲しそうに目を細める。違う、そんな顔させたいわけじゃないの。でも、でも……っ。



「離してください」
「や、やだっ…」
「どうしてですか?僕が怖いのに」
「だって…このまま離したらもう会えない気がするから……」



だから怖くても離せないの。言いたい事は沢山あるけど、そのどれもが口を付いて出ては来ない。代わりに彼を引き留めるのに必死だった。不意に黒子くんの指が頬を滑り、その指が目元を拭う。それで自分が泣いてることに気が付いた。あれ…何で私ってば泣いてるの。もう訳が分からなさすぎて混乱してきた思考回路が思考を停止しようとする。それを無理矢理に動かしながら、乾いた口が漸くと動き出す。



「黒子くんは何…?人間じゃない、よね…」
「……はい。僕は吸血鬼です」
「吸血鬼…?」



信じられないとばかりに、その言葉が口を付いて出た。だって、それは物語上の生き物でしょ?だけど、実際に友達は倒れていて彼の口許は血で汚れていた。否定する要素なんて今の私は何も持ち合わせていない。茫然とする私の手をまた彼が離させようとする。それで意識が現実へと引き戻される。意固地になって、その手を離そうとはしなかった。



「なまえさん、」
「いやっ、絶対に嫌!」
「僕と会えなくなると思うからですか?こんな化物が二度と目の前に現れない方が良いのに?」
「そんなことっ、ない…。例え吸血鬼でも黒子くんは優しかった…だから、化物なんかじゃ…」
「でも、僕は貴女の友人に手をかけました」
「それは……」



どうして、そんな事を言うの。何でわざと怖がらせるような事を言って遠ざけようとするの。彼の考えが分からない。泣きそうな顔をするぐらいなら言わなきゃ良いのに。人工的な灯りの元で見た彼の表情に胸が締め付けられていく。何時の間にか服を掴んでいた手は外されていて、これ以上は彼を引き留められないのだと悟る。涙に濡れた目で黒子くんを見上げれば、不思議と穏やかな目をしていた。何か覚悟を決めたような、そんな目だ。



「明日になれば、全部忘れています。僕の存在も、今日あった事も」
「なにそれ……っ、」
「それがなまえさんにとっては一番です。けれど、忘れてほしくないって気持ちもあるんです」
「だったら何で…!!」
「姿を見られたら記憶を消さなければならない。それが僕たちみたいな存在が生きていくためのルールです。…なので少しだけ残酷なことをしましょうか」
「残酷なこと…?」



目を瞬かせ、口を開こうとするのを遮るように優しいキスが落とされる。何も言えなくなる私に微笑むと、そのまま夜の帳へと姿を消していく。へたりこんで、その残酷なことの意味を理解した。確かに、これは私にとっては酷く残酷なことだ。やだよ…忘れたくない。忘れさせるぐらいなら、どうしてこんな事をしたの。大粒の涙が溢れては、服の布地に吸い込まれていく。ああ、このまま時が止まってしまえば良い。そしたら忘れないのに。





あとがき

リクエストありがとうございました、優緋様。如何だったでしょうか?何だか切ない恋と言うより悲しいお話になってしまいました。当初、黒子は妖にするつもりが何故か吸血鬼になっていたものです。お楽しみ頂けたなら幸いです。

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