怠惰陰陽師 | ナノ
視える



漂う嫌な気に気分が悪くなってくる。女子にまとわりつくのは嫉妬とか独占欲みたいな負の感情ばかり。それを向けられているのは、おそらくマネージャーの少女。こんな気を向けられていて、よく平気なものだと半ば感心しながら見ていれば、ある事に気が付いた。彼女は視えるうえに霊力持ちだ。珍しい存在に紗雪は、微かに目を見張る。けれど、同時に険しげに目を細めて足元に擦り寄る小さな動物霊に手を差し伸べた。その時に肩にジャージを引っ掛けた誰かが近付いてくるのが視界に映り込む。



「やあ、忍足。どうしたんだい?」
「練習試合の資料を渡しに来たこれの付き添いや」
「…新しいマネージャー?」
「新しくもないんやけど…そんなもんやな。紗雪、資料渡しぃや」
「ああ。……へぇ」



そう言えば、そうだったと鞄から資料を取り出して手渡す。その際に部長の幸村精市だと忍足に耳打ちされ、思わず声が漏れた。確かに噂で聞いた通り顔が整っている。だが、そんなものに紗雪は興味がなく単純に彼が視えるタイプの人間だからだ。此処まで、はっきりと視えているならば、さぞかし大変だろうにと他人事なので其処で思考を打ち切った。彼女からしてみれば、面倒事に首を突っ込むことすら億劫なのだ。幼馴染みの言葉がなければ、此処にすら来てはいない。



「俺の顔に何かついてるかな?」
「いや、別に。珍しい後天的な体質だと思っただけだ。…侑士、本当にやるの?もう帰りたいんだけど」
「せやったら何のために来たん。ちゃんと立ちぃや」
「だーるーいー。聞いてたのよりか厄介な状況だし、一日じゃ終わらない」
「……忍足、何のこと?」
「あー、紗雪。先ず説明しよな」
「必要ないでしょ。だって彼、視えてる。一度、生死の境をさ迷った。それで普通じゃ視えないものが視えるようになった。違う?」



紗雪の言葉に幸村は目を見張った。その反応からして間違いないと踏んだ彼女は、無表情だった顔に僅かに笑みが浮かぶ。ずるずると座り込みながら何者かと言う問いに耳を傾けた。傾けたと言っても面倒くさくて口を開こうとすらしなかったが。スカートのまま地面に座り込む紗雪を見兼ねた忍足が彼女の制服に付いた土を払ってから背に背負った。こうなった彼女は徹底的に動かないのは分かりきっている。其処でもそもそと口を動かし始めた。



「氷帝学園二年の安倍紗雪。姫さんとは幼馴染み。好物は――」
「そう言うの聞いてんとちゃうやろ」
「あ、じゃあ特技は幽霊が視えることでーす。ついでに祓えます。これで良いのか?何か私が電波ちゃんみたいじゃん」
「ナマケモノの間違いや。にしても幸村クンも視えんやなぁ」
「俺もってことは忍足も視えるって事だよね?もしかして、それ関係で来たの?」
「おん。何や彰子が嫌な気が纏ってる言うから跡部が心配してな。ほんで紗雪が来た訳や。まあ、見ての通り動かへんけど」
「藤原さんが?彼女も視えてるんだ…。跡部が心配するってことは跡部も…他にも視えるのがいるんだろ?」
「彼処は視えるのばっかだからな。まあ取り敢えず本題に入ろう。と言ってもテニス部だけじゃ済まなさそうだ」
「それ、どういうこと?」
「学校全体が可笑しいのは気づいてるでしょ?だから根本的なものを解決しなきゃならない。故に鯛焼き五個じゃ割りに合わないので頼まれた事だけ片付けて私は帰る」



威張るやなと言われたが、それを無視して鯛焼き五個分しか仕事はしないと言い切る。取り敢えず事情を説明し、件の一年を呼ぶように言うと注目を集めながらその場で待っていた。天然パーマなのか。髪が凄くクルクルしていると紗雪は思いつつ、品定めするように見つめた。そして小さく溜め息を吐き出す。何て厄介な展開なのだろうか。



「深度8の危険度B。ジロちゃん以来の大物だね。あの時はどうしたっけ」
「殴っとった」
「それは姫さんに手を出したから不可抗力だ」
「あ?なに訳の分かんねぇこと言ってんだよ。練習中に呼び出しやがって…さっさと用件なり言えよ、無表情おんぶ女」
「…………ねぇ、これ放置で良くない?良いよな、これ」
「あかん、怒られるで」



紗雪は珍しく目を据わらせながら、やる気が削がれたとばかりにそっぽを向く。それを宥める忍足に大きく舌打ちをし、切原の額を人差し指でついた。大した力も入れられていないはずなのに、意識を失った彼の体が倒れていく。その様子を遠目に見ていたテニス部のメンバーが驚いたように駆け寄ってきた。それと同時に邪魔な女子を追い払ってきた島崎もまたやって来る。



「おい、赤也に何しやがったんだよ!」
「別に何もしてませーん。バランスが崩れてるから気絶しただけだし。普通なら気絶しない。えっーと、幸村?だっけ。どうすんの説明すんの?」
「…多分、信じないと思うけど説明するなら俺がするよ」
「ふぅん、そこの銀髪とマネージャーは信じるだろうけど。ザキ、ついでに例のもの見てきた?」
「はい。予想通りでした」



教室を確保してもらうとともに確かめてもらった気になること。その答えを聞き、満足そうに頷く。そして幸村からこれからの出来事について説明をして貰えば、例の二人以外は信じられないとばかりに目を丸くさせていた。不審の目を向けられながらも前金の鯛焼き三個を食べてしまい、気絶した切原は島崎に運んでおいてもらう。今はいたら邪魔だと判断したからだ。



「信じるか信じないかは今から判断すればいい。取り敢えず狂い咲きの赤い桜を見たいから移動したいんだけど」
「…お前さん、あれの事を知っとるのか?」
「知らないから見に行くの。着いてくるなら勝手にすれば」



何て勝手な奴と言われたが、生憎ながら紗雪は生粋の自由人である。とにかくマイペースで周りの事なんて気にもしない。当然ながら自力で歩くはずもなく、真田にだらしないと言われながら中庭へと向かった。




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