偽物さがし | ナノ
いつか忘れるのなら



あれから泡沫には相当怒鳴られた。しゅんと肩を落としながらも梦は彼等と出来れば仲良くしたいと訴えたのは、その後の事。これにもまた彼女の雷が落ちたが、それでも意志を曲げなかったところ渋々であるが許可が降りた。泡沫も泡沫で、同じ能力者である吠舞羅の面々にはそこそこ気を許しているように見受けられる。単純に彼処は居心地が良いのだ。居場所を転々と変えていき、一定の場に留まるのは新鮮で。慕ってくれるアンナは大人びていて、だけど年相応の表情を見せてくれるのが微笑ましくて。深入りはしてはいけないのに、してしまう。泡沫はちゃんと線引きしているのに自分には出来ない。何時かは離れる場所で情を移せば別れが辛くなる。幾ら言い聞かされても直らないのだから仕方がない。なぜ追われるようになったのかは、分からない。ならば少しでも多く、居心地の良い場所で過ごしたい。だから、最近はバーHOMRAに顔を出しに行くのが日課になりつつあった。どうしても行きは泡沫が部活のため一人であるが、致し方無い。運が良ければ追い掛けられることもないうえに近場にいた誰かが迎えに来てくれることもある。そんな事を考えつつ、梦はゲートを通り抜けていく。外には見慣れぬ青色が立っていた。



「セプター4…?」



青い装いにサーベル。まず間違いなく泡沫が関わるなと言っていたセプター4に間違いない。しかし、単独で何故?壁に寄り掛かり、制服を着崩した歳の近そうな彼は怠そうに端末を弄っていた。まるで誰かを待っているようだと梦は思った。吠舞羅とは犬猿の仲であり、彼等と関わる以上は絶対に関わってはならない組織。そう忠告した泡沫の表情を思い出しながら、横を通り抜けようとした。



「……篠宮梦」
「え?」



名前を呼ばれ、思わず反射的に足を止めてしまった。そこで慌てて鞄を肩にかけ直し、走ろうとしたが腕を掴まれ、動けなくなってしまう。それでも頑張ってみたが、前には1センチたりとも進みはしない。困惑の表情を向けてみても相手は怠そうなまま。レンズ越しに青の瞳と視線が交わり、梦の表情には更に困惑が広がっていく。不安そうに視線が空を飛び回った。



「は、放して下さい…」
「あー、俺も仕事なんで」
「仕事…? いや、でもセプター4って……」
「面倒くさいんで質問は後にしてください。行きますよ」
「え、あ……」



口調はあくまで丁寧なものだが態度を見れば一目瞭然。彼は面倒くさいとしか思っておらず、慌て戸惑う梦の手を無理やり引いて舌打ちを漏らしていた。完全に萎縮してしまった彼女は嫌々ながらも手を引かれているため歩くしかなく、結果としてついて行くことしか出来ない。何度も言葉を紡ごうと口が動くが、結局は声にならず閉ざされてしまう。そんな事を繰り返しているうちに少し離れたところに止められていた車に乗るようにと促された。これには流石の梦でも断固として拒否の姿勢を示す。あのセプター4なのだから誘拐などの線は有り得ない。ならば、何処に連れていかれるのか。それを考えたところでぞっとする。また頭上で一つ、舌打ちが聞こえた。



「面倒くせぇな…」
「面倒くさいって……わたしは、」
「ちっ、さっさと乗れよ」
「え、わっ!」
「すいませんね、あんたを室長のとこに連れていかないと煩いんで」



背中を押され、車内に倒れこむような形になり、背後でドアが閉まる音がした。慌てて振り返るもののドアは既にロックされており、無情にも車は走り出す。信じられないとばかりに運転席に座る青服を見たが、こちらの視線に煩わしげに眉を寄せたのがバックミラーに映るのみ。梦は今にも泣いてしまいそうな表情で泡沫と、口が動く。その瞬間、彼女の上体が傾き、シートの上に長い髪を散らしながら崩れ落ちた。






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