偽物さがし | ナノ
嘘で満たされた森



あれから三日後。異能制御装置であるシルバーのブレスレットを腕に嵌められた梦は大人しくルービックキューブの面を合わせていた。目の前にいる人物を無視して。所謂、調書取りのようだが、肝心の彼女が話を聞かないために全く進んでいない状況だ。苛立たしげに一人が舌打ちを漏らし、もう一人がそれを宥める。梦は、そろりと顔を上げて直ぐにキューブへと視線を戻す。



「いい加減にしろよ…」
「………………」
「お、落ち着きましょう、伏見さん。…君も喋れない訳じゃないんだよな?」
「ん、」
「え、何?」



梦の視線が窓へと向けられる。それに何か意味があるのかと日高がそちらへと近寄ったところで彼女は小さな声で開けてと呟いた。それに首を傾げながら開けたところ、何故か数匹のリスが窓から侵入してくる。そのリス達は梦の頭やら肩に登って何かを伝えるように鳴く。その光景を見ていた伏見が無言で肩を震わせた。無論、怒りのために。



「日高!さっさと、その窓を閉めろ!!」
「す、すいません!」



等の本人は満足そうにリス二匹が頭の上に登るのを放置し、またもやキューブの面を合わせ始める。最早マイペースを通り越した自由人。こんな自由人と吠舞羅の二人は、どうやって会話をしていたのか。それを本気で考える日高を余所に伏見は部屋を後にしていく。つまり、押し付けられたのだろう。ガクリと肩を落としながらイスに座った日高は、梦が自分を見ていることに気が付いた。



「どうかした?」
「……ありがと、この子達…入れてくれて……」
「ああ。伏見さん、怒らせちまったけど…何となく嬉しそうだもんな」
「………聞きたいこと、なに…?」
「え?答えてくれんの?」
「ん……たぶん…?大分、話せるまで……なおせた、から……」



直せた?その言葉に日高は首を捻った。彼女が、この三日の間にしていたことは延々、キューブの面を合わせるだけ。しかも最後の一面だけ合わせずにやり直すことを繰り返していたのだ。おまけにご飯もあまり食べずに。だから、会話をすること事態が初めて。戸惑いながらも質問をすれば、頷いたり首を振ったり。それ以外では、ちゃんと話をして、それらに梦は大人しく答えた。だが、彼女が今まで何処に身を寄せていたか。それだけは何があっても答えようとはしない。顔を青くさせ、怯えたように首を振るだけだ。



「そっか、仕方ないか……」
「……怒らない…?」
「ははっ、怒らないよ。他は答えてくれたしさ」
「……変な、人…」
「ええ!?それって変人ってこと!?」



項垂れる日高を笑うようにリスが鳴き声をあげる。その一匹の頭を撫でながら梦は首を傾げていた。そんな折りに陽気な声とともに扉が開けられる。入ってきた道明寺は、リスの姿に目を輝かせた。



「リスじゃん!こいつが呼んだのか?」
「見たいっすね…」
「おー、どうした日高?まだ喋ってくんねぇの?伏見さん、すっげえキレてたけど」
「いや、喋ってくれたんすけど…別のことでダメージが……」
「………動物、すき…?」
「おっ、喋った!好き好き!リスなんかむっちゃ可愛いよな!」
「俺のことは無視っすか…」
「ただし白あん意外な!」



白あん?そう呟いて梦は首を傾げた。不思議そうに首を傾げながら、彼女は肩を陣取っていたリス達が走っていくのを黙って見つめる。それが道明寺にじゃれようが日高にじゃれようが興味は白あんとやらに向けられていた。白あん…餡子…小豆…。そう連想を重ねたところで分かるはずもなく、漸く名前なのだと気が付いた梦は白あんが何の動物なのかが気になり始める。彼女が、もう一度だけ白あんと呟いてから五分後。何故か白あん脱走の報せが届いた。



「あの野郎、またかっ!!」
「……白あん…見たい…」
「白あんを?室長が良いって言えば見れると思うけど…」



室長。その言葉に微かに反応を示した梦は、キューブへと視線を落とした。再び肩へと登ってきたリスが小さく鳴きながら首を傾げるような動きを見せる。それから一匹が外へと駆けて行く。その様子を見ていた二人は不思議そうに首を捻った。それから十分もしないうちに部屋の外が騒がしくなり始める。その原因を知ろうと部屋の扉を開けた道明寺の顔面に馬の蹄がめり込んだ。



「白あん…!!てか、道明寺さん!!」
「……白あん、うま…馬、なんだ…」
「漸く追い詰めたぞ!!白あ……え?」



駆け込んできた弁財が見たのは、白あんが梦にすりより、その隣では蹄の痕が痛々しい道明寺を必死に介抱しようとする日高と言う何とも言えない光景だった。そして、ついでに言うならば白あんの上にリス数匹が乗っている。梦は白あんの頭を撫でながら無表情のまま立ち尽くす弁財へと視線を向けた。だが、それは直ぐにその後ろへと向けられる。逃げ出した白あんを追って何人もの人間が来たのだ。その中には宗像の姿。青の王。そう彼女の口が微かに動いた。そろそろと白あんの後ろへと隠れるように足を動かす。



「一先ず、白あん煮込み豆腐を馬舎へ戻しましょうか」
「……この子、悪くない…蜂に刺されて、驚いただけ……此処まで誘導したのは、私…」
「おや、君は動物との意思疏通が可能なのですか。それにしても制御装置を付けているはずなのですが…まあ良いでしょう」
「……室長、恐らくそれ以上は近付かれない方が良いのでは…?彼女、怖がってます」
「そうですか?」



宗像が一歩でも近付けば、その倍は後ずさる梦。秋山の指摘に微かに首を傾げる宗像であったが、現に彼女は逃げるように部屋の隅にまで移動をしていた。加えてその前に両手を広げるリスの姿。しまいには何処からか持ってきたクルミを投げ付けている始末である。リス達は至って真面目なのだろうが、何ともその姿が可愛らしいの一言に尽きた。



「どうやら随分と嫌われてしまったようですね」
「だ、大丈夫ですよ!室長!きっとこの子達の機嫌が悪いだけで…」
「リスにまで嫌われるとか…室長の人間性を見抜いてるんですかね」
「伏見!!」



榎本のフォローの言葉むなしく伏見が口を挟んだ。それに淡島が声を上げたところで梦は床へと座り込んでキューブをいじり始めた。それに合わせてクルミ投げを止めたリスが遊び始める。そして彼女の背後にある窓からは一列に並んだ鳥の姿が見える。その日は、誰もその窓を開ける勇者はいなかった。


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