偽物さがし | ナノ
こぼれおちた流星



あの事件から一年。その後、無事に救出された泡沫は酷く不機嫌そうに数日間を過ごしていた。あの事件以降は緑のクランから追われることもなくなり、平和と言えよう。だが、またしても事件は起きた。双子と同じ容姿をした少女が現れたのだ。それによって出た怪我人は三人。慌ただしく動き始めた赤のクラン。それによって青のクランもまた目を光らせ始めていた。



「人が多いなぁ…ウサギさんとはぐれちゃって帰り道も分からないし……」



どうしようと肩を落とした少女は、サイドに一つに結んだ長い蜂蜜色の髪を不安そうに揺らす。七釜戸にある有名女学院の制服を着た彼女に周りからは物珍しい視線が向けられる。それに気が付いて落ち着かなさそうに前髪を弄り、鞄に入れてあった薄手のコートを羽織った。これで多少は目立たなくはなるだろう。タンマツを握り締め、人混みの中に紛れようとしたところで声を掛けられた。



「梦!さっきぶりだね!」
「え…?」
「あれ?どうしたのさ、そんな不思議そうな顔して」
「変な梦!」



声を掛けてきた三人組に梦と呼ばれた少女は不思議そうに首を傾げる。その様子に三人も困惑したように顔を見合わす。そして夜刀神が彼女の制服が葦中学園のものではないことに気が付いた。だが、まさしく容姿は自分達がよく知っている少女のものだ。ここまで似ていることがあるのだろうか。戸惑ったように眉を下げていた少女は何かに気が付いたように小さく声を漏らした。



「白銀の王様……?あ、もしかして御前のところでお会いした事が…すいません!覚えていなくて本当にすいません!」
「え、ええっ!?ちょっと待って落ち着いて!」



酷く慌てたように頭を下げ始めた少女に伊佐那は驚いたように目を丸くさせながら止めにかかった。それにしても何故、自分が王だと分かったのだろうか。一年のうちに色々とあって今の体になってしまった。だが、それを知るのはごく少数の人間のみ。加えて御前と言われれば、出てくるのは一人しかいない。まさか、この少女はウサギだと言うのだろうか。僅かな間に思考をフル回転させたネコ以外の二人は取り敢えず話を聞きたいと少女を近くのカフェへと誘う。自分たちが良く知っている彼女のように何の警戒心もなく少女は頷く。一通り自己紹介を済ませたところで本題へと移った。



「何故、こやつが白銀の王だと分かったんだ?」
「色が見えたんです。他の人とは違う色が…それで気付きました。能力みたいなものです」
「じゃあ梦はストレインなの?」
「そのようなものです。でも、どうして私の名前を知っていらしたんですか?お会いしたことがないのでしたら…」
「ネコたちの友達に同じ顔したのがいるんだもん!名前も一緒!」



それを聞いた少女――梦は驚いたように目を丸くさせた。だが、すぐに表情を元に戻すと、そうですかと小さく微笑んだ。それから何となく話をしていくうちに梦は、自分がウサギではないことを告げる。ただ単に御前に世話になっているのだと。それだけの理由で第二王権者の元にいれるものだろうか。けれど、本人がそう言うのだからそれ以上の追及は無意味と言えよう。



「ところでさ、敬語じゃなくて大丈夫だよ?王様って言っても大した人間じゃないし。ね?」
「そう、ですか…?それじゃあ、そうするね」
「うんうん。あ、シロで良いよ」
「シロくん?…王様相手にこんなので良いのかな」
「シロが良いって言ってるんだから良いのだ!」
「ところで、お前はどうして此処にいるんだ?第二王権者の元ならば七釜戸に―」
「あ!忘れてた!!ウサギさん探してたんだった」



いま思い出しましたとばかりに大声を上げて頭を抱え始めた梦は慌ててタンマツを確認する。沢山の通知を目にして涙目になりながら、この場にいないウサギに謝り始めた。出来るだけ手早く荷物を纏めて三人にペコペコと頭を下げる。



「ごめんなさい。今日は失礼します」
「大丈夫なの?はぐれたウサギに会えそう?」
「た、たぶん…見付けてくれると思うから」



その返事に果てしなく夜刀神は激しい不安を覚えた。地理に不馴れであろう本人を此処で一人にしてしまって良いのだろうか。一先ず着いていこう。三人はアイコンタクトをしただけで、その意見に行き着いた。不自然でない理由を作り、それをすぐに信じてしまう彼女に新たな不安を覚えてしまったのは致し方ない。ウサギと連絡を取りながら歩いていき、大きな交差点へと差し掛かる。其処で怒声にも似た声が聞こえてきた。声の持ち主を理解した伊佐那は、やはり着いてきて良かったと思う。何せ今、赤のクランの元にいる少女とそっくりの容姿をした少女にとって此処は危険極まりない場所なのだから。周りを囲まれてしまった等の本人は、怯えたように顔色を変える。"赤"と梦の口が微かにうごいた。



「漸く見付けたぜ!」
「見付けた…?」
「待て、貴様ら。いきなり何の真似だ」
「何の真似だぁ?んなこと、てめぇらだって分かってんだろうが!」
「まあまあ取り敢えず落ち着こうよ」



庇うように伊佐那が一歩、前へと出た。その背に庇われながら梦は顔を真っ青にさせている。そんな彼女を気遣うようにネコが声をかけたが、"赤"はダメだと呟くだけ。流石に様子が可笑しいと気が付いた鎌本が八田を諌めにかかった。だが、完全に怒りに我を忘れているらしい彼には届かない。視界一杯に赤が広がった。





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