その少女、陰陽師につき | ナノ
悔悟を嘯く



力を借りるにあたって危険性を低くするために符や数珠などを持たせてから車で移動をする。恐らく神隠しとやらにあった人間は何ヵ所に別れて囚われているはずだ。其処へ繋がる一番近い瘴穴が何処だかは分からない。そもそも何れ程の数が穿たれたのかさえ、分からない状況だ。一先ず赤司の学校に最も近い地点で発見された瘴穴の前まで来ていた。あとは此処に足を踏み入れるだけである。覚悟が決まってはいるが、一様に顔色は悪かった。



「良いか?三人を見付けたら直ぐに帰るぞ。瘴穴の中では、そう長くは動いてられない」
「りょーかいっ!」
「…本当に大丈夫か?」
「高尾、お前のせいでオレたちまで疑いの目を向けられるから止めるのだよ」
「ええっ!?オレ、返事しただけじゃん!」
「それよりさー、時間ないなら別れて行動すれば良いんじゃね?」
「大丈夫なんスかね…?」
「瘴穴内には取り込まれた妖がいるが…動きはトロイ。逃げられるから大丈夫だろう。…そうなると桃井と紫原は別々に行動するべきだな」
「どうして?ムッくんと離れても大丈夫だけど…」
「お前は霊力が高いから感知能力の低い黄瀬と組んだ方が効率が良い。紫原は退魔の力が強いからな、緑間と相性が良い。高尾は相棒といたほうが精神的に良いだろうが、桃井と一緒に行動するべきだな。黄瀬では心もとない」
「ひどっ!」
「一人ずつ見付けたら合流しろ。私が見付けた奴とともに迎えに行く。準備は良いな?」



無言で頷く五人とともに瘴穴へと飛び込んだ。真っ暗くて嫌な気を纏った其処は少しずつだが、霊力を削り取っていく。足元にまとわりついて重い瘴気を払い、辺りを見回しても誰もいなかった。どうやらバラけてしまったらしいが、それを想定して彼等には、まじないを掛けていたからバラけてはいないはずだ。さて、此処からは誰が近いか。気配を探ってみても、この濃密な妖気のなかでは意味がない。



「ふむ、同調してみるか」



目を閉じて、誰かの意識と同調させる。暗い、寒い、お母さん何処、悲しい、痛い。様々な人間の意識と同調していき、漸く三人のうちの赤司の意識を捉えることが出来た。それまでにかなりの人数の意識と同調させたために気分が悪かったが、足は何の躊躇いもなく走り出していた。途中出くわした妖を祓い、足を止めることなく其処へと辿り着く。真っ白な繭のような中に囚われた人々の中に一際目を引く赤があった。



「赤司っ!」
「……結依…?」
「意識があるか、流石だな。待っていろ、今…」
「待てっ後ろだ!」
「―!!!」
「邪魔はいけないよ、お嬢さん」
「くっ、貴様…」



赤司の言葉に振り返るよりも早く結依の背に鈍い痛みが走った。あたたかい何かが流れていくのに、それが血だと分かるまで時間はかからなかった。修験僧の格好をした男を睨み付ければ、男が手にしていた錫杖がしゃんと鳴る。今回の首謀者であろう相手は薄く笑みを貼り付けながら、背後に黄泉の瘴穴によって変貌した妖を引き連れていた。



「漸く悲願が叶う。我ら一族の千年前に妨げられた悲願が…!だから無粋な真似はしないでおくれ」
「出来ない相談だな。貴様の悲願とやらに耳を傾ける暇さえ惜しい。…呀狼、赤司を連れて彼奴らと合流しろ」
「僕だけ逃げろと言うのか!?」
「仕方ないだろう。こいつを仕留めなければ私たちに未来はない。頭の良い、お前だ。状況が最悪なのは分かってるだろ」



尚も言い募ろうとする赤司を結依の式である呀狼が襟首を噛んで背へと放り投げる。巨大な狼の形をした式は、そのまま走り去っていく。これで後は黒子と青峰を見付け出して片割れに瘴穴の外へと出してもらえば良い。そこで小さく息を吐き出した結依は傷にぺたりと止血と痛み止の符を貼り付けた。



「さて、貴様が最近の鬼塚の封印やら女子生徒を操るなどをやってくれたのか?」
「そうだよ。お嬢さん達の目を余所へ向けなきゃ瘴穴を穿てないから」
「…いくつ穿った。相当な霊力を消耗している貴様に勝ち目はないぞ。大人しく吐け」
「…ふふっ、でも妖は残ってる。君もお友達も死んじゃうよ」
「舐めるな。私も彼奴らも弱くはない!」



人に向かって術を使ってはいけないよ。そんな祖父の言葉が脳裏を過ったが、相手は人に在らずと結依は刀印を組んだ。男は間違いなく陰陽師でありながら外法に道を踏み外したものだ。此処で見逃せば、後々厄介なことになると分かりきっていた。結依は痛む背を無視し、高らかに詠唱を始める。群がってきた妖を滅していくが如何せん、数が多すぎる。式神を連れていない彼女が先に力尽きるか、その前に妖が消えるかの時間勝負だ。



「凄い凄い。頑張るねぇ。でも…此処はキツいよね。力が削られていくんだ」
「黙れ、外道が…はっ、はぁ…くそっ、」
「もう限界だよね?大人しく瘴穴を穿つ礎になってよ」



粗方片付けたが、妖は無限に吐き出されてくるものだ。暫くすれば、また現れてくることだろう。そうなれば結依とて限界だ。今も傷だらけの体を引き摺りながら距離を取ろうとするが、無駄な足掻きに終わりそうだ。しかし、まあ良いと彼女は思う。つい先程、瘴穴が無理やり現世と繋げられたのを感じた。そして出ていく複数の気配。彼らが出られたならば後は内側から塞いでしまえば良い。にやりと笑って術を使おうとした時に脳天に突如として痛みが走った。目の前の男から視線を逸らし、振り向けば拳を握る青峰と現世へ戻ったはずの面々がいた。





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