その少女、陰陽師につき | ナノ
セラフィムは明日を見るか



京都は普段と変わらない様子で時が流れていた。だが、それは表面上のみである。気付かれないように蠢く闇を捉えた陰陽師達は直ぐにそれを祓ってしまう。けれど、祓えども祓えども。その数は減らない。異変が起きている事に気が付いたのは三日ほど前だった。それから急速に事態は広がっていき、遂には関東を守護する結依達までもが本家に呼び戻される事となる。大広間には日本全体に散らばる陰陽師が集まっていた。上座に据え置かれる本家の筆頭よりも高い場所に座しながらも遠慮さを見せる昌浩を取り敢えず肘でどついておく。しかし、困ったことになったものだと結依は思った。まさか最強と謳われる祖父が伊勢にいる折りに限って問題が起こるなんて。最も位の高い上座は空席で、其処を何となしに睨み付けた。



「にしても大事になったもんやなぁ」
「そうだな」
「てか、ワシが此処に座っとってええの?」
「大丈夫ですよ。俺たちだって座ってますし」
「そりゃ自分等が直系だからやん」
「問題あるまい。どうせ実力がものを言う場だ。ところで今回の件はどう考えている」
「桃井の件もあったしのぅ…しかも鬼塚もや。誰かが一枚噛んでるのは確実やな。せやけど、黄泉の瘴穴を穿とうなんてアホはおらんやろ」
「けど、現に瘴穴が穿たれてます…。全てがこのためだとすれば納得がいくけど…」
「下手すれば黄泉比良坂の扉が開かれる。道返大御神の元へ行かなければならなくなるだろうな」
「行きとうないわぁ…」



黄泉の瘴穴が穿たれれば其処を中心に瘴気が広がっていく。早々に穴を塞がなければ京都だけではなく、日本全土に被害が広がってしまうだろう。最悪の場合は出雲の黄泉比良坂が開かれ、黄泉の軍勢が攻めいってくる。そうなれば、この日本はおしまいだ。それだけは阻止しなければならない。そのために集められたのだが、体裁を気にするあまり本家の爺どもは動こうとはしない。どうせ時期に総理によって、この京都は封鎖されるのだ。そんなものを気にするだけ無駄と言うものだ。呆れたような冷ややかな視線を投げ掛けていれば、携帯が震えた。ディスプレイを見れば黒子からの電話である。



「どうした、黒子」
【あの皆で赤司君に会いに京都に来ているんですが彼と連絡が取れないんです】
「京に…? 黒子、よく聞け。今の京都は危険だ。すぐに迎えに行くから全員で纏まっていろ。赤司は此方で探す」
【わ、分かりました】



どうしたと言わんばかりの視線を向けられ、端的に事情を説明する。力が強くても守る術を知らない彼等は格好の餌食だ。黒子には簡単は結界の張り方を教えているが、そう長くは持たないものだ。何かあれば、それで時間稼ぎ出来るだろう。狩衣の裾を翻し、走り出そうとしたところで本家の陰陽師達に呼び止められた。それに対し、あからさまに表情を歪める。



「何処へ行く、結依殿。貴殿には南の結界の守護の任があるはずだ」
「そんなもの昌浩一人で事足りるはずだ。そのような匙事に構っている暇はない」
「匙事だと!?」
「口が過ぎるぞ!」
「そうでないなら何故、動こうとはしない!それほど体裁が大切か? 友が危険に晒されていると言うのに安穏と安全な結界の守りをしていることの方が大切か?」
「だが、太極を見据えなければ、」
「そんなご託は聞きたくない。友を救えずに何が陰陽師だ。そんなものならば陰陽師であることを止めた方がマシだ!」



結依に気圧された陰陽師たちは黙るしかなかった。相手の反論がないことを確認し、隅の方で爆笑をする兄を見やる。何がそんなに可笑しいのかは知らないが、父からの呆れたような視線を受けながらも近付いてきた。



「よくいった結依!流石、俺の妹! そう言うわけなんで俺たちは自由に行動しても宜しいですよね、爺様方」
「まったくお前たちは…」
「まあまあ、父上。ここは末の妹の好きなようにさせてあげましょう。結依、車を出してあげるよ」
「! ありがとう昌親兄さん!」
「ひゃー、本家の爺様に逆らうなんてようやるわ」
「何時もこうですから諦めました。気を付けてね、結依」
「ああ。昌浩もな」



今度こそ走りだし、二番目の兄が運転する車へと乗り込んだ。式神には赤司の件を伝えておき、黒子達がいると言う場所へと向かう。遠い西の空は澱んだ瘴気のために濁った色をしていた。





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