3 | ナノ




ただあたたかい





都会はこんなに人がいるというのにどうしてこうも寒いのか。
春を思わせる髪色の彼、綱海条介は珍しく眉間に皺を寄せながら肩をいからせ容赦なくぐるぐるに巻いたマフラーに顔を半ば埋めるようにして歩いていた。トレードマークのゴーグルの代わりに新しく買った若草色の耳あてをきつく当てなおす。こんな寒い日はいくらなんでもサーフィンなんかしては凍え死んでしまう。まあ海だってこの時期には遊泳禁止なわけだけれど。

ジャージのポケットに両の手を突っ込みグラウンドへと足を運ぶとそこには既に先客がいた。「お」思わず顔が綻び息を吸う。

「ふどー!!」

突然の大声に驚いたのかボールを蹴ろうとした足はボールを踏み砂が擦れる音とともに呼ばれた彼の体はぐらりと揺れた。なんとか保ったバランスに安堵の息をつくと眉を上げ肩越しに振り返る。

「うるせー!!ビビらせんな!」

「わりーわりー!」

綱海は大して悪びれる様子も無くへらへらと笑いながら駆けて行き転がって不動の足元を離れたボールに足を乗せる。右足で軽く滑らせ足の甲に乗せると軽くリフティングをし膝から跳ね上がったそれをようやく今ポケットから出したばかりの右手で受け止める。どことなくめんどくさそうな、やはり寒そうに肩をすくめ睨んでくる不動にボールを投げた。

「勝負しよーぜ!先にゴール入れたほうが勝ち。負けたらジュース一本」

「乗った」

不敵に口角をあげた不動は受け取ったボールを地面に置き足で一旦静止させ勝負を持ちかけたはるかに背の高い彼の向こうのゴールを見据える。

「勝てんのかあー?ジュースごちそーさん」

「やってみなきゃわかんねーって」

「さぁ、な!」

不動は会話途中にもかかわらず快活に笑った綱海の横を華麗にすり抜けコートを上がって行き短い慌てたような声と追いかけてくる足音に小さく笑みを浮かべる。体格の差かあっという間に追いついた彼も計算内だと余裕のある笑みをはそのままに足でボールを裁く。ちらりと綱海の顔を覗くと真剣な表情でボールを見ており自分とボールの間にいる不動をやや覆うように前のめりでタイミングを見計らっているのがわかる。それを翻弄するように右へ左へ細かくボールを転がし隙が出来た瞬間にディフェンスをすり抜けてゴールめがけてシュートを放つ。「やべ」焦りのにじむ顔が不動の背後から現れてシュートを防ごうとした足は彼の足ともつれそのまま倒れてしまった。


「いっ・・・て・・・」

「わり、大丈夫か?!」

綱海が反射的に閉じた目を開けば彼のすぐ下に不動が倒れており痛そうに顔をゆがめ薄い唇からうめき声が漏れた。その唇に縫い付けられたように視線が逸らせないままだった綱海はぱちりと開かれた深い翡翠の両眼とかち合い暫く見詰め合った。薄い唇が再び開いて舌が覗いた。「綱海、」そこでようやくまるで押し倒してしまったかのような体勢に慌て飛びのくように立ち上がった。思わず欲情してしまったことを悟られないように熱が集まった顔を逸らしながらそれでもいまだ倒れている彼に手を伸ばし引き起こす。
不動はさして怒っている様な風でもなく引っ張られ起き上がれば背中に手を回して砂を払うようにジャージを数回叩いた。ふわりと髪がゆれる。思わず目を奪われた綱海は微かだが頬に朱を走らせたまま彼を見つめた。


「ったくよー本気だしすぎだってじょーすけくんよぉ」

「・・・え」

「・・・は?」


突如かけられた声にやや反応が遅れ茶化すような言葉に耳を疑った。不動もそんな綱海に不思議そうに片眉を上げる。沈黙が流れて綱海は気まずそうにへらへらと笑って頬をかいた。呆れたように不動が肩をすくめた。

「・・・んだよ気持ちわりいな。ほら、俺ゴール決まってっからジュース。奢れよ」

「あー、奢る、約束だしな。何がいい?」

「あったけーの」

「今?」

「そ。待ってっから行ってきて」

「おー、待っとけよ」

自身の名前を冗談ではあるが呼ばれたような気がした綱海はしばし惚けていたもののゴールに収まっているボールを見れば落胆の声を漏らしつつ約束どおりジュースを買おうとポケットの中の小銭に触れる。指先で小銭が足りることを確認すると明るく笑ってその場を来た時の様に走って去っていった。

残された不動はその背が見えなくなると座り込み深く溜息をついた。片手で髪をくしゃりとにぎる。伏せた顔は見えなくともさらけ出された耳は赤く染まっていた。ばあか、小さく呟く。

「・・・折角名前呼んでんのになんだあのアホ面・・・ムカツク」

先ほどの勝負で体が温まったせいか暑そうにジャージの袖を肘までまくりあげて照れたような、不機嫌なような顔でボールを取りに立ち上がった。






(そのわけを)




あとがき


綱→←不です。萌え。
お互い気づいてない隠れ両思い・・・
ふざけたフリして思い切って名前を呼ぶのに不動ガン見しすぎて反応が遅れる綱海。
え、名前呼ばれた?いや聞き間違い?とか悶々してるうちに痺れ切らして恥ずかしさも通り越してイライラしてきた不動に話題変えられて、みたいな。
交錯して倒れちゃった辺りは内心どっちもあわあわしてればいいよ^^
ヘタレ綱海も好きですがぶっちゃけ押せ押せ綱海が好きですYO


20101228



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