3 | ナノ
祈る
なぜだか上手く行かなくて努力は惜しんでいないはずなのに皆との差は開いていくばかりで苦しい。やっと掴んだレギュラーの座も今にもこの手からすり抜けて行きそうで怖い。いつからかボールを蹴るのが辛くなった。
不動は変な奴だった。最初は捻くれた厭味な奴だとくらいにしか思ってなかったけど最近はそうじゃないと思い始めた。あいつもレギュラーになりたいはずなのに怪我の心配さえしてくれた。それは他のメンバーなら当たり前なのだろうけれど非レギュラーの、しかもあの、不動明王が、だ。夜中に自主トレをしていると鉢合わせすることも多くなった。減らず口を叩くけどそれが楽しくて気を使わなくて今ではいい相手だ。
最近驚くくらい言い訳が増えた。メンバーは心配しさえするのに不動は見抜いて「ひどい言い訳だな」と呆れたようにも馬鹿にしたようにもとれる顔で笑う。優しさにも似たその皮肉は静かに俺を支えていた。
ボールがポストに当たって跳ね返る。シュートを打つのもつまらなくなって泣きたくなった。虚しく転がるボールが戻ってきた。
「サボってんなよ」
「休憩だよ」
後ろから不動の声がして振り返りながら応える。不動は俺の足元のボールを器用に転がしてからシュートを放った。渇いた音が響く。心臓がどくりと鳴った。ボールは戻ってこない。
「見たかよ」
「見てなかった」
「サイテー」
ふてぶてしいような、同時に楽しそうにボールを蹴るから益々悲しくなる。気づいたらしゃがみ込んでいた。
「どうしたんだよ」
少々の驚きを含んだ、けれど諭すような声が頭上から降ってくる。例えばしゃがんだ理由を「重力のせいなんだ」と答えたら、やはりまた「ひどい言い訳だな」と笑ってくれるだろうか。
(呆れたような嘲笑を望む)
あとがき
努力家なリュウジが大好きです。でもきっとそんなリュウジも努力が辛い時があるはず・・・
20110121
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