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だれよりも





今まで会った人達はもちろん色んな人が居て、明るい人もいれば静かな人もいたしとにかくいろいろだ。でもどんな人でも挨拶をすれば挨拶を返してくれるし笑えば笑い返してくれる。この人を除いては。

「不動さん!」

必殺技の一人特訓で遅くなって慌てて宿に戻り汚れた手を洗おうと洗面所に入ったら不動さんが居ていつも通り挨拶をして蛇口をひねる。不動さんは歯を磨きながらチラリと俺を見ただけでいつも通り何も言わない。はずだったんだけど。

「…どうしたんだよ」

「………はいっ?」

また挨拶返してもらえなかったな、と分かってはいたけれどやはり落ち込んで、というのもそれは彼が俺の想い人だからで、汚れた手をぼうっと見つめながら手を洗っていたから反応が大分遅れた。慌てて顔を上げると鏡越しに目が合う。なんだか心臓が煩い。

「いやだからどうしたんだよ、って聞いてんの」

「えっ?どうしたって何がですか?」

突然話かけられたと思ったらいまいち話が掴めなくて蛇口を閉めてタオルで手を拭きながら振り返る。歯ブラシくわえててもきまってるんだから困ったものだ。

「なんか…入って来るとき元気ねぇなあと思っただけだ」

怒っているような口調で言う彼をまじまじと見つめる。

「なんかあったのかと思ったけどなんもねーなら損したな」

きまりが悪そうに歯ブラシをくわえたまま器用に舌打ちすると不動さんは洗面台に向かって歯磨きを再開した。俺は動けなかった。必殺技はいつまで経ってもできないし最近だんだん気分がふさぎ込みがちだったのは確かだ。でもいつも挨拶だけは明るくしようって心がけていて、誰も気づかなかったのに、なんで、不動さんが。

「不動さん、俺…」

歯ブラシを仕舞って彼が振り返る。

「俺、いつまで経っても必殺技できないんです。凄いキーパーになって皆さんと世界で戦いたいのに」

今まで誰にも言えず溜め込んでいたものが溢れ出す。自分への不満や不甲斐なさ、活躍の場すら与えて貰えないことへの失望感、取り残されるような不安、全部全部。不動さんは黙って聞いていた。一通り吐き出し終えて我に返って謝る。最低だ、俺。

「なんで謝んだよ」

「だ、だって不動さんも疲れてるのに愚痴とか聞かせてしまって」

もう一度謝ろうとしたら乱暴に頭が撫でられた。汗もかいたし砂まみれだったからかやけにわしゃわしゃと音がした。驚いて肩がはねる。

「お前はいっつもへらへら笑ってるけど頑張ってんのは皆知ってる。それにお前はあいつらに好かれてんだから今みたいに素直に言えばいいじゃねーのかよ」

俺じゃなくてと付け足して皮肉顔で不動さんが笑った。初めて俺に向かって笑ってくれたなと思ったらうれしくて思わず、本当に思わず抱き着いた。彼の手が俺の髪から弾かれたみたいに離れた。あ、不動さんって意外と小さい。

「はあっ!?おいっ離れろ!」

不動さんが驚いたように目を開き少し顔を赤くして腕の中で身をよじる姿が可愛いからますます離したくなくなってさらに抱きしめた。

「不動さんに。皆じゃなくて不動さんに話を聞いて欲しいんです。…駄目ですか」

例えば嬉しかったことも悔しかったことも悩みも不安も喜びも(それから愛を)。不動さんの耳が真っ赤に染まった。予想外の嬉しい反応についくすりと笑う。

「慰めたりしねーぞ俺は。皮肉言われてぇのかよ」

「嘘です、だってさっき慰めてくれたじゃないですか」

「…おめでたい奴」

不動さんがため息をついて諦めたように笑った。初めて見た表情に胸は次第に高鳴る。やっぱり好きだなあ、と思って抱きしめていたらいい加減離れろと足をおもいきり踏まれた。

「お前がどうしてもっつーなら聞いてやる」

そう言って洗面所を出て行った彼の顔が赤かったのは見間違いなんかじゃないはずだ。








(伝えるのは貴方がいいと思うのです)




あとがき

立→(←)不な感じです
ベンチウォーマーズまじ可愛い・・・
20110114




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