3 | ナノ
赤い糸とは違う
目の前のぷるぷると震える脅威に思わず目をひん剥いた。二度瞬きして睨み上げる。
「どーいうことだよこれは」
「トマトゼリーだが…」
「見りゃわかる。食えってことかよ?」
源田はにこりと微笑んで皿を手に取り渡そうとしてくる。受け取るつもりは毛頭ない。
「食べてくれないか?一生懸命作ったんだ」
「お前が作ったのかよ…」
ため息をついてちらりと源田を見ると期待に満ちた視線が返ってくる。暫く渋っているもののなんだかいたたまれない。そんな目で見るなよ。とりあえず何とかして食べずに済まないものか。
「トマトまずいじゃねーかよ」
「大丈夫だ、ゼリーだからそんなにトマトトマトしてないぞ」
「…あ、っそ」
トマトトマトてなんだそりゃと思いつつちらりと皿を見る。真っ赤なそれはやはりぷるぷると震えている。源田がスプーンで一匙掬って突き出してきたから反射的に後ずさる。
「不動、ほら、おいしいぞ」
「まずいぜってーまずい」
「おいしいんだが…」
眉をハの字に下げて困ったように源田が笑ってスプーンを置いた。掬った一口分は皿につるりと落ちる。無言でスプーンを取ってそのかけらを掬うと目が輝いた。食うわけないだろ…。
「ん」
「ん?」
「ん!ほら!食えって!」
「えっいやこれは不動に食べて欲しくて」
「ほら、あーん!」
素直に口を開いた源田にゼリーを食わせてやると自然と笑みが零れた。もう一口掬って食わせてやる。
「あーん」
「ん…うまい。力作だから不動も食べないか?」
「しつけぇなあ食べねぇよ」
源田は咀嚼しながら考えるように唸った。どうやらまだ食べさせたいらしい。俺は上の空なのをいいことに源田に何度もスプーンを運ぶ。…よし、もうちょい。
「んー…。んっ!?」
「はい、ごくろうさん」
にっと笑って空になった皿を見せてやると源田は口をポカンとあけたままじっと見てきた。その表情が段々呆れて曇っていく。ふう、とため息をついて後ろ頭に手を伸ばされたかと思ったら視界一杯に源田が、いて、
「仕方ない、ここから慣れていくか」
「…は?」
トマト味に、と源田が小さく笑う。まんまとやられたみたいだ。案外トマト味も悪くない。正直なところそんな味はしなかったんだけど。一瞬だけトマトが好きになれそうな気がしたのは言わないでおこう。
あとがき
ただのバカップルいえーい
途中源田が受けくさくなって焦った笑
title by:brooch様
20110113
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