3 | ナノ




願わくば








「不動」

開くはずのない扉が開いて声がかけられた。背を壁に預けたまま肩越しに振り返る。弱々しい源田が立っていて鳩尾がえぐられる気分がした。なんで。

「来てくれたんだな」

強張った顔がふと緩んで源田が力なく笑った。こいつが無理に笑うから泣きたくなった。


「……よお」


源田は笑顔をそのままに病室に俺を招き入れた。真っ白い世界に飛び込んだみたいだ。息苦しい、出たい、消えたい。


「来てくれないかと思ったぞ」

「……」

促されたベッド際のイスに腰掛けると源田はやはり安心したように笑う。この俺に向かって。なんで。


「お前が、どこかに行ってしまうんじゃないかって」

くしゃり。顔を歪めて泣きそうに笑った。腕にはいまだ包帯が巻かれている。痛々しくて俺は後悔する。今までの俺全てを。


「……憎くないのかよ」

「えっ」

源田が驚いたように俺を見た。なんのことだといいたげで俺は静かに舌打ちする。室内に嫌というほど響いて苦しくなった。

「腕。まだ痛むのか」

「ああ…もうだいぶいい」

俺が何を言いたいのか分かったらしく源田は今度こそ苦笑した。お前は優しすぎるんだよ。

「なあ、不動」

源田が自分の腕に巻かれた包帯を弄るのをやめて俺の手を弱々しく握った。だから逆にその手を振り落とせなかった。


「俺は恨んでいない」

「あれは俺が決めたことで」

「俺の弱さがこういう結果になっただけなんだ」


「だから」


源田の指に少し力が篭った。


「お前は悪くない」


ぼろりと涙が落ちた。視界はみるみる滲んで世界は遠退く。


「ばっかじゃ、ねーの」


震える虚勢は情けなく響く。俺はこんなに弱い奴だったのか。涙はなかなか止まらなくて源田がもう片方の手で力なくけれど優しく、あまりにも優しく頭を撫でるからますます止まらなかった。ほんと馬鹿じゃねぇのお前。


「不動」


やっと涙が止まって視界が晴れると源田は真っすぐ見つめてきた。今までの苦い微笑みではなく温かさを湛えた微笑みを浮かべて続ける。


「俺らは始まり方を間違えたかもしれない」


「でもまだ遅くはないだろう?」


源田が両手で俺の手を包み込むように握った。


「俺ともう一度、本当のサッカーをしてくれないか」


嗚呼。


「約束だからな」


嗚呼。


源田は勝手に約束だと言い張り嬉しそうに笑うと少し疲れたからと暫くして眠りについた。俺は何も言えないで何もできなくてずっと寝顔見て黙っていた。


源田の手をとり顔を近づける。


「約束、か」


そっと小指に唇を当てる。やはり無性に泣きたくなって唇を離した。


「ありがとう」




「さよなら、源田」











(始まりも終わりも一緒に迎えたかった)




あとがき

真帝源不つら
想いあってるのにすれ違いとかね・・・(遠い目)
甘いVerリベンジしたいですね!
リベンジするかもしれない!
20110110






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