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しあわせひとつ







「…はよ」

「おはよう、不動。よく寝れたか?」

「ん、おかげさまで。二人は?」

「鬼道と佐久間なら初詣に行くんだとかでもう出て行ったぞ」

「はーよくやるな・・・」

欠伸を噛み殺し涙を目の端に浮かべながら不動が寝室から出てきた。

「雑煮、餅何個入れる?」

「いや一個でいい」

頷いてお買い得とかかれた袋から丸い餅を不動の分と俺の分を取り出して雑煮の中に入れる。

「もう少し時間かかるぞ」

「おー」

台所までのそのそとやってきた不動は俺の後ろから鍋を覗きこんで、うまそう、とだけ呟いた。ちらりと後ろを向くとつま先立ちでいるのが見えて思わず笑った。

「なに笑ってんだよ」

「いや、何も。昨日は楽しかったな」

「あー…。あんなに騒がしかった年越しは初めてだ」

言いつつ不動が肩を竦めた。呆れたようにも見えるが嬉しそうなのは見間違えじゃないだろう。

「ま…ありがとな」

照れくさそうに顔を伏せて頬をかきながら不動が小さく言うからこちらまで照れてしまって、ああ、と短く返事することしかできなかった。

「…源田」

「ん?」

首を捻って振り返ると唇に柔らかいものが触れて視界一杯に不動が居た。

「…楽しかった」

「え…今…」

ふいと顔を背けて不動は台所を出て行く。見える耳は真っ赤だった。

「……、やられた」

唇を手の甲で覆いつつそれでも鍋の中の餅がいい柔らかさになる頃合いを見計らう。とろりとやわらかくなった餅を掬い器によそう。熱いそれを食卓まで運ぶと不動は頬杖をついて胡坐をかいて待っていた。

「熱いから気をつけてくれ」

「へいへーい」

先程のあれは夢だったのかと思うほどの普通の対応に拍子抜けしつつ隣の座布団に座る。

「えっ隣かよ。狭」

「こっちの方がストーブがあたるからさ」

「ま、それもそうか」

後ろにあるストーブを指せば納得したように不動は箸を取り手を合わせた。

「いただきます」

「いただきます」

不動はこういう礼儀みたいなのを実は大切にする。以前意外だなと言ったら、手料理食えるのに何も言わねぇとか失礼だろと睨まれた。

「うまい」

「そうか。よかった」

思わず笑顔になって自分も箸を雑煮につける。やはり熱くて少しずつしか食べられなかった。隣からはよっぽど熱いのかふうふうと息を吹き掛ける音がした。ちらりと食べながら見ると口を尖らせた不動が予想通り息を吹き掛けていた。なんだかその仕草がほほえましい。

「あちっ」

「大丈夫か?」

「餅が…いてー火傷した」

ついでいた麦茶をぐっと飲んで、ほら、と舌を出して見せてくる。

「あっ、赤いなあ」

「だろ?超熱い」

唸りながら未だ舌は出しっぱなしで不動は眉を寄せた。その舌があまりに赤くてカッと赤が俺の顔にうつるのが分かった。

「…あーしばらく食えな…んぅっ」

堪えきれずにその舌を自分の口に含む。そのまま唇を押し付け食べるように何度も角度をつけて繰り返す。時折漏れる不動の声が艶っぽくて益々食らい尽くしたくなった。

初めこそ抵抗していたもののそれさえ微々たるもので今ではまるでなすがままでいるのをいいことにゆっくりと押し倒した。

「不動…」

「っは…ぁ…、馬鹿…舌痛ぇよ…」

「すまん…あんまり色っぽかったから」

不動はまだ息が荒く肩を揺らしながら呆れたように笑う。それさえも色っぽく見えるんだから俺も困ったものだ。

「昨日綱海に口説かれてただろ」

「あ、聞こえてた?」

「声でかいからな…それに横に居たし」

昨夜の電話での彼らのやり取りを思い出しつつ何度も好きだと言う綱海と満更でも無さそうな不動が脳裏を掠めて、ほだされないか心配だったと言うと口角をあげた不動が首に手を回してきたと思ったらぐっと顔を寄せられて耳元で囁いた。

「・・・じゃあほだされないくらい愛してよ、こーじろー」

名前を呼ばれたら途端にたまらなくなってもう一度貪る様に口付けた。ああ、どこまで可愛いんだか。

「愛してるぞ・・・明王・・・」

同じように名前を呼んでやると二人分の唾液を飲み込んだ不動がくすぐったそうに笑った。









あとがき

うわーん盛りすぎだ馬鹿 笑
ちょっと小ネタの続きっぽく
綱海落ちにするか源田落ちにするか凄いすごい迷った
20110103



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